那智の祭り(2)祭りの主役ー扇神輿
那智大社の7月14日の例大祭は「那智の火祭り」として有名です。正式には「扇会式(おうぎえしき)」または「扇祭」です。なお同じ日に速玉大社でも「扇立祭」があります。偶然なのでしょうか。もとは旧暦6月14日と18日の行事でした。松明の燃えさかる勇壮な姿に思わず目を奪われますが、祭りの主役は扇神輿です。まず扇神輿から話を始めます。
祭り当日大社に参拝しますと、境内には扇神輿が並べられています。扇神輿は幅約1m、長さ約6m、大人の背丈の数倍ある細長い板(框〈かまち〉)です。これを二人の男性が運びます。神輿は12基。12というとすぐにピントきますよね。熊野十二所権現!そして1年12か月。さらに十二支。ピンポーン!正解です。熊野十二所権現はこのブログを読まれている方には説明は不要ですね。
1年は12か月ですが旧暦だと閏月があり13か月のこともありますが、それに関係なく常に12基です。この祭りは旧暦の頃から続いています。十二支は年だけでなく方位も表します。方位の場合は子(ね)の北からになりますが、ここでは那智の大瀧が南向きですから、午(うま)から始まり、未(ひつじ)、申(さる)の順です。ということで神輿の第一扇は午になります。
この神輿は祭りが終わると解体されます。通常の神輿のような御殿造りではありません。板に赤い緞子(どんす)が縁松(へりまつ)という長短の板木でとめられます。長い方は約60cm、短い方は約30cm。その両端に大小の波状の削りかけを作ります。平年だと12、閏月のある年だと13。旧暦の閏年には13基用意する
のではなくこういうところで調節しています。縁松を固定するのに使う竹釘は1基につき360本。旧暦の1か月は30日ですから1年の日数になります。
神輿全体の構造は那智の大瀧の姿を模しており、頂上には「光」を表す構造物がつけられて造化三神(速玉大社の祭神と本地仏参照)の神徳を表し、前面には8枚の鏡が取り付けられます。扇神輿の名前の由来である扇は金地に朱で日の丸が描かれたもので、1基につき30枚で12基で360枚。旧暦の1か月の日数(30日)と1年の日数(360日)になります。さらに基底部には半開きの扇が2面付けられ、これは月の上弦•下弦を表しており、そこに「ひおうぎ(桧扇)」と呼ばれるアヤメ科の植物が4本添えられます。他に飾り物として「蝶の髭(ひげ)」があるそうですが、どういう物かよく分かりません。
扇神輿は普通の神輿と形状が違いますから担ぐことはできません。二人の男性が左右から持って移動します。この役目を扇指し(おうぎさし)と言い、麓の市野辺(いちのべ)の方々がその役に当たります。