動作分析の達人のメカニズム③~歩行周期と3軸重心移動のキネマティックとコアスタビリティの関係
【歩行分析をメタ的に考える】
こんにちは
さて、歩行分析は皆さん得意ですか?不得意ですか?
正直言うと駆け出しの頃は歩行分析なんて本当に出来んのかい?と思っていました。
だってですよ?あんな歩いている人の「イニシャルコンタクトでアンクルロッカーが使えてない」「ローディングレスポンスで距骨下関節の外反が足りない」とか
本当に分かってんのぉ?なんて思っていました。
ちなみにご存じない方の為に説明すると現在の歩行分析は「ランチョスロスアミーゴ」が提唱する歩行周期の分類に沿って、それぞれのフェーズごとに分析するのが主流だと思います。
歩行分析の専門書も書店に行けばたくさん見つかると思いますが、そのほとんどがランチョスロスアミーゴの歩行周期の分類に沿って、各歩行周期における正しい身体の使い方、想定される代償動作を細かく記載されています。
しかし、余りに細かすぎて、またこれまでのコラムでご理解頂けたと思いますが「直感的」な姿勢評価には「言語」を用いる記憶である「エピソード記憶」などよりは言語を使わない「非陳述的記憶」である「手続き記憶」を用いると想像されます。
と言う事で、私は歩行分析を知識武装をしたからと言って出来る訳じゃないと思っています。
もちろん、知識はある方が良いし、私も歩行分析の記述されている本だけでも結構な数を持っています。
インソールの神様と言われた理学療法士の入谷誠先生はそれを踏襲した上で「蹴り足」「踏みこみ足」の特徴と代償動作から歩行分析をされていたと思います。
こちらはやや直感的な評価法になるので、流石は入谷先生だなと思います。
興味ある方は「結果の出せる整形外科的理学療法」と言う書籍に細かく説明されているので、ご購入してみてください。
まぁ、とにかく歩行分析と言うのは「本当に出来るのかい?」という気持ちが駆け出しの頃はありました。
ですが、最近…と言ってもこの10年くらいですが、私はちょっとしたコツを見つけました。
そして、このコツはランチョスロスアミーゴの歩行周期分析と併用出来ますし、運動指導をしている人ならば誰でも習得しやすいものなので、その触り部分を皆さんに今回はご紹介したいと思います。
皆さん最近は「メタ思考」という言葉が流行っていますか?
メタ思考とは?これまた最近流行りのAIさんに調べてもらいました。
ようは「本質を見極める」という事でしょうね。
流行りに乗っかる訳じゃないですが…
私が見つけたコツは「メタ的に歩行を観察する」事から始まります。
では、皆さんと一緒に少しメタ的に「歩行分析」を考えてみたいと思います。
《そもそも歩行とは?メタ思考で考える》
そもそも歩行とは何でしょう?
全ての日常動作の土台と言っても良いと思います。
オステオパシーで有名な「グリーンマン」はマニュアルメディスンの目的の一つとして「正常な歩行動作の獲得」を提案してたと言います。
それはすなわち、正常な歩行が全ての日常動作の土台であり、それを基礎として様々な運動やスポーツでの動作が生まれると言う事だと思います。
腰痛や肩こりなど不定愁訴であっても、マニュアルメディスンの方向性としては正常歩行の獲得とは興味深いですよね。
また、歩行は人間の基本の移動手段(ロコモーション)でもあります。
人間は直立二足歩行を獲得するまで乳児期の一年を通して様々な運動を学習します。
そして直立二足で立ち、歩行するに至るのですが、その人間の全ての移動(ロコモーション)の基本は乳児期の「寝返り」動作だと近年は言われています。
世界ナンバーワントレーナーのグレイ・クックが提唱するFMS(厳密にはSFMA)でも、ローリングを基本のロコモーション能力の評価として見る事を奨めています。
また、一見似通っている人間とサルの歩行ですが、実は似て非なるものです。
大雑把には7つほど違いがありますが、その中でも致命的な大きな違いが一つあります。
それは…
『猿は転ばないように歩くが、人間は転がるように歩く』
です。
これが致命的だと言う理由は具体的にあります。
この違いを生み出しているのは「ハード(身体)」ではなく「OS(脳みそ)」の違いが大きいからです。
ちなみに「猿と人間の歩行の7つの違い」について詳しく知りたい人は有料記事に「人間とサルの歩行の違い」という補足記事を書いていますので、そちらをご覧ください。
《人間の歩行は転倒から始まる》
ブレニエールは乳児の歩行は「転倒」から始まり、大人の歩行も基本的には同質であり、違いはその転倒が上手になった事と言っています。
以下引用です。(佐々木正人著 からだ・認識の原点)
大人でも乳児でも立位の移動は転倒から開始してそれを変形させた動作である。
ただし両者の転倒には違いがある、大人では全身を前に倒すために、いったん身体重心を後ろにかける予期動作がある。
記録してみると大人はいったん踵に力がかかるようにしそれからの立ち直りとして前に倒れていく、この予期的後傾によって歩行のリズムが繋がり、大人の歩行はスムーズな転倒の反復となる、しかし一歳を越えても、乳児はそのような予期的な後傾動作をしない。
乳児は下腿をロックし、それを解除するという方法だけで前への倒れ込みを歩行に仕立てている (Breniere et al., 1989)
人間の歩行の特徴は猿の歩行が必ず「重心が支持基底面から外れない」ように歩くのに対して、人間の歩行(健常者)は「重心が支持基底面より外れる瞬間を敢えて作る」ように歩く事です。
これは重心位置と床反力作用点(支点)の位置をずらす事により「回転モーメント」を発生させて「運動エネルギー」に転換していると言う事です。
難しい表現ですが、簡単にいうと「転がる力を利用して歩く」と言う事です。
これには「予測姿勢制御」や中枢神経での高度な「動的制御」が不可欠になる事は間違いないですが、まだ全てが分かった訳じゃ無く、多くが謎に包まれています。
これに関して歩行分析で有名な理学療法士協会の理事である石井慎一郎氏はセミナーのレクチャーノートの中で(歩行の臨床バイオメカニクス)
「ヒトの二足歩行は未だに多くの謎を秘めている、特に自動化された制御方略に関しては、人類に追って最大のミステリーの一つだと言える、なぜ我々は全く意識しないでも転倒する事なく歩き続けるのか?バランスが崩れた際の転倒回避がどのような制御で行っているのか?…以下略」
と述べています。
《体幹のコアスタビリティが全ての運動の基本》
石井氏の述べるように歩行の全てが判明した訳では無いのですが、歩行は転倒の繰り返しで成人の歩行は予測的姿勢制御や中枢神経系での動的制御が精緻化したものである事は間違い無いです。
特に予測的姿勢制御に関しては乳児の寝返りパターンと共通項が多く見られます。
一番の共通項は「体軸内回旋」です。
やや厳密ではないですが、簡略して説明すると胴体の部分を回旋させながら予測的にバランスリアクションを起こす事で移動しています。
「では、回旋動作を見れば良いのか?」と言うと少し早計に思います。
寝返りと違うのは歩行の回旋動作は「荷重位」と言う事です。
荷重位での運動ではどのような運動においても「コアスタビリティ」がしっかりと準備されているのか?がキーポイントになります。
《コアスタビリティってなに?》
スポーツ医学の世界で著名なKiblerは以下のようにコアスタビリティを以下のように定義しています。
「体幹・肩甲骨・骨盤、大腿部の一連の活動、つまり多関節運動連鎖であり、予測的にも反射的にも効率的に動ける安定性」
難しい言葉なので厳密では無いですが簡単にすると「臨機応変に環境や運動の文脈の変化に対応し運動出来る体幹のしなやかさ」と言ったところでしょうか?
私が提唱する歩行分析は
・歩行を実際に見る前に「3軸での重心移動」の運動連鎖とコアスタビリティを見る
・その後に歩行周期においての体幹のコアスタビリティを見て比較する
実は一番重要なのがあと一つありますが…これは本当に一部の人間しか気付いて無いと思うので、将来的に商売にしたいのでしばらく秘密にしておきます(笑)
ちらっと書くと「○○○○○動作と立位回旋動作において○○○のパターンが正常に出ているか?チェックする」です。
《3軸での重心移動と歩行動作の関係について》
具体例を挙げると「立脚中期~終期」ランチョスロスアミーゴ方式で言うところの「ミッドスタンス~ターミナルスタンス」では、実は体幹が良好なコアスタビリティーを有している場合には遊脚側に体幹が側屈する事が分かっています。
これは実際に歩いて評価しなくとも、クライアントの立位での体幹側屈の動きで同じ動きになる傾向がある事に気付きました。
上の写真は座位での体幹側屈動作の制限が歩行周期での立脚中期~終期の足部のミスユーストと関係しているというのを著した説明する写真ですが、立位の方が下肢の要素も入るので実際の歩行動作に近い動きが出ます。
《歩行動作の代償動作、ミスユーストを改善するには体幹のコアスタビリティから》
これは「卵が先か?ニワトリが先か?」論争になりかねませんが、乳児の運動学習の法則は「中心から末端」となり、ロコモーションはそもそも体幹の動きから先んじて四肢の動きが後からついてきますから、私はその傾向は成人になってもあると思っています。
実際に臨床では歩行周期で代償運動が生じている周期に該当する体幹の動きのコアスタビリティを改善すると歩行時の代償運動も改善するケースが多いです。
ちなみに一つ例を挙げると…
立位での側屈動作を行うと「骨盤のスウェイ」が過剰に出てしまう人が時々いますよね?以下の写真のように…
このように立位での側屈時に骨盤のスウェイが過剰なクライアントは、歩行周期での立脚中期から終期に掛けてトレンデンブルク歩行の様相を呈すことが多いです。
しかし、コアスタビリティが改善して、正常な側屈時の重心移動と運動連鎖が出るようになったならば、ほとんどのクライアントがトレンデンブルク様歩行も改善します。
これは股関節の安定性が無いという考え方とコアスタビリティが無いと言う考え方が出来ると思います。
しかし、人間の運動では四肢が動く0.03秒前には腹横筋が予測的に事前収縮する事が分かっています。
この腹横筋は股関節の深層外旋六筋の内閉鎖筋と筋膜連結している為にほぼ同時に収縮して股関節を安定させます。
その為に私はまずコアスタビリティを優先的に評価します。
皆さん歩行分析だけを見ても正直「どこが悪いか?分からない」と言う人はいて当然だと私は思っています。
しかし、3軸の重心移動ならば運動指導を行っている先生なら誰でも見れるようになると思います。
そして、3軸の重心移動と歩行周期分類との関連性が理解出来れば、改めて歩行分析する時には「見える景色が変わっている」ことは間違いないのです。
それはこれまでのコラムで書いてきたように、手続き記憶として正しい体幹動作のパターンが無意識そうに記憶されているからです。
例えるならば、詰将棋は本当の将棋ではないですが、正しいパターンである「定石」を繰り返し見ていると実際の対局でも考えなくとも「盤面その一手」が無意識にさせるようになるのと似ています。
特に回旋動作でのコアスタビリティと運動連鎖を評価するのはとても重要です。
なぜなら、人間の歩行時の体幹運動の特徴は、側屈中心のお猿さんと違って回旋運動が中心だからです。
下のクライアントのビフォー&アフターの写真を見て、回旋動作の改善と共に歩行が確実に良くなっていと理論的に言える根拠がいくつかあります。
一つは「バイオメカニクス」的なものです。
皆さまはお判りでしょうか?
ビフォー
アフター
3軸での重心移動での正しい運動連鎖とコアスタビリティを評価出来ると様々な事が分かってきます。また、歩行分析でも無意識に正しい動きが分かるようになってきます。
有料パートでは上記の回旋動作の改善が「なぜ?歩行動作でバイオメカニクス的に有利なのか?」を説明します。
また、冒頭で話の出ました「サルと人間の歩行の7つの違い」についても説明いたしますので、良かったらご購読ください!
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