動作分析の達人のメカニズム~正しいパターンとは?②
【動作分析の達人のメカニズム②】
前回の話ですが、天才の直感は正しいパターンを繰り返し経験する事が必要と言う話をしました。
詳しく説明しますと、脳科学者の池谷裕二は著書の中で「直感」は大脳基底核にあると説明しています。
実は近年の理化学研究所と富士通の共同研究で更に細かな事が分かっていて、大脳基底核の中でも「尾状核」が関係している事が分かってきています。
この基底核は「非陳述記憶」である「手続き記憶」で働く事が知られています。
手続き記憶は覚える事も思い出す事も無意識に行われる記憶です。
歩き方、自転車の乗り方、歯磨きの仕方などの、言葉では説明出来ないが無意識に覚えている記憶の事です。
将棋の棋士の感想戦や詰将棋を直感的に答える時などで大脳基底核が良く働いている事から、恐らくそれらは手続き記憶のメカニズムを使っていると考えられています。
感想戦では「定石」の棋譜だと思い出せるようですが、定石から外れた棋譜だと思い出せず、素人などと対局するとプロ棋士でも思い出せない事もあるようです。
また詰将棋も長考する時には大脳新皮質が働き、基底核はほとんど働かない様です。
「理由は良く分からないが正しいと確信がある」というのが手続き記憶の特徴です。
なぜ?定石でしか手続き記憶は働かないのか?
これを池谷氏は「展開として有り得るパターンをたくさん経験して、脳の中で自動的に類型化(カテゴライズ)されたものを法則化して覚えているのでは?」と著しています。
つまり「あり得ないパターン」は類型化されないと言う事です。
「将棋に勝利する為の有り得るパターン」をたくさん経験していくと自動的にパターンが類型化されて、実践の場で盤面を見た瞬間にパッと勝利への道筋が見えてくるのでしょう。
これを私たちの「姿勢評価」に当てはめるなら「不良姿勢からニュートラルポジションへの姿勢改善のパターン」を繰り返したくさん経験する事で類型化され、クライアントの姿勢をパッと見た瞬間に無意識的に姿勢の分類と改善方法が見えてくるのではないでしょうか?
これが私がただ不良姿勢を見るだけでは姿勢評価の目は養われない、まずはニュートラルポジションを基準にして不良姿勢を評価すべきと言う理由の一つです。
《直感的に動作分析が出来る人は何を見ているのか?》
1983年runesonとfrykholmは「年齢」「性別」の異なる男女の身体の主要な関節に暗闇で発光するポインターを付けてもらって、暗闇の中でそれぞれ異なる重さの砂袋を持ち上げてもらい、被験者にその光る点の動きだけでモデルの「年齢」「性別」更には「砂袋の重さ」を答えてもらうという実験をしたところ、かなりの高確率で正解を得たそうです。
更には男性モデルに男性であるのに女性のしぐさを真似して動いてもらうなど演じてもらっても高確率で正解したそうです。
この事実から私たちは人の動きを直感的に判断する際には「映像情報」を余り使っていない事が分かります。
またランソンはこのような事がなぜ?出来るのかについて、光の点の動きから分かるキネマティクス(運動学)的情報を無意識的に心的ダイナミクス(動力学)情報に変換しているのでは?と考えています。
恐らくこのような直感も手続き記憶を利用している事が考えられます。
そして、面白い事に映像と言うよりは「関節角度」「角速度」「四肢の形状」などのキネマティクス情報から「重さ」「力」「運動量」などのダイナミクス情報も推測し紐づけて記憶している様です。
《姿勢の評価も正しく行えば動作分析に役立つ》
一般的に正しい動きと言われる動きは「ニュートラルポジション」を基準に始まっています。
分かりやすく説明すると…
正しい前屈動作と正しい後屈動作を続けて実施するとしましょう!
その中間地点では必ず正しい「ニュートラルポジション」になるはずですよね?
だって、正しい前屈と正しい後屈の中間なのですから。
その中間地点の姿勢が不良姿勢のスウェイバック姿勢だとどうなるか?
前屈動作では上半身の質量中心点、簡単にいうと上半身の重心が前下方に移動し、下半身の質量中心点は上半身の逆である後下方に移動する動きが前屈です。
しかし、スウェイバック姿勢では上半身の質量中心点がそもそも後方(バック)に移動(スウェイ)しているので上半身の前下方への重心移動が十分に行えず、正しい前屈動作の実行が困難になります。
更に後屈ではスウェイバック姿勢では「腹直筋」「外腹斜筋」が短縮しているケースが多いために、後屈時に「チェストグリッピング」と言って、下部胸郭の伸展制限が生じやすいです。(写真上が下部胸郭伸展の出ている体幹後屈、写真下が下部胸郭が伸展制限の出ている体幹後屈)
このように身体が立位で正しい運動を実施する為には、立位姿勢の基準となる直立二足でのニュートラルポジションが保てるか?が非常に重要です。
以下の動画はどちらも当院施術の施術ビフォー&アフター動画ですが
上がダンサーの方で座位で良い姿勢を保つ事が出来る方です。
昨年のしゃべり場でもお手伝いしていただいたプロダンサーの嶋田莉沙さんです。
下は一般の主婦の方で座位の姿勢で猫背を気にして胸を張り過ぎる傾向があります。
施術内容は同じ事をしていますが脊柱の動きの連動が下の動画では上部胸郭に上手く生じていません。
《姿勢の評価する視点はランドマークだけじゃない》
古典的な姿勢評価の方法としての「ランドマーク」による評価(耳穴、肩峰、大転子、膝やや前方、外顆やや前方)はケンダルによって世に広まったと言われいています。
皆さんはスウェイバック気味の人でもランドマークは全て並んでいる、またはズレの少ない人を見た事無いでしょうか?
下の写真の方はスウェイバック姿勢ですが、画像だけでは分かりにくいです。
ランドマークだけだと上の写真のような人が「どんな不具合が出るのか?」分かりにくいですよね?
このように古典的なランドマークでの評価だけでは、6つの視点の内でも「力学的視点」が主に評価出来るだけなので、他の5つの視点はカバー出来ません。
6つの評価視点とは
・力学的視点
・生理学的視点
・運動生理学的視点
・作業効率からの視点
・心理的視点
・美学的視点
です。
この6つ全てのバランスの良い姿勢が「静姿勢」「動姿勢」どちらにおいても「良姿勢」となります。
このように姿勢評価と動作分析は非常に関係深いのです。
さて、皆さんは動作分析の中でも「歩行分析」は得意でしょうか?
これはなかなか得意ですと言える人は少ないのではないでしょうか?
ローディングレスポンスでは…イニシャルコンタクトは…と頭では分かりますが、実際にクライアントが歩いている姿を観察して評価出来ますか?
動画で撮影してもなかなか分からないというのが実際のところではないでしょうか?
ですが、歩行とは何をしているのか?という本質を知る事で複雑な歩行分析で「どこを見るべきか?」「どこは見なくて良いか?」が分かります。
次回はそういう話をしたいと思います。
《今回のまとめ》
・「正しい姿勢」を知る事は「正しい動作」を知る事の基礎になります。
最後までご覧いただき誠にありがとうございます。
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