原典講読700: ヒュームとベイズ(1)


さて、原典講読700と題して気の向くまま原典講読をやっていきたいと思う。原典講読はテキストの一部を朗読して、その詳細を訳して、その間違いや不足の知識を教師が提供するという、まあ福沢諭吉が砲弾が飛ぶ中で幕末に行っていたという伝説の講義形式であり、人文系の大学や大学院では基本は原典購読で勉強をした。その感じを再現してみたい。最初から古典に挑戦するのは大変なので、英語で書かれた研究論文を時間をかけて読んでいきたい。しばらく、下記の論文を読んでいく。

A Bayesian Analysis of Hume's Argument Concerning Miracles

この論文はPhilip Dawid と Donald Gilltesが執筆して、2000年にPhilosophical Review誌に掲載された。 Humeが著作「An Enquiry Concerning Human Understanding」で行った、奇跡に対する議論で、彼は奇跡を信じることよりも信じないことの方が常に合理的だと主張している。Dawidたちはこの論文でベイズ的確率理論を使ってHumeの議論が論理的に正しいかどうかを査定している。ベイズ確率論は、新しい証拠に基づいて確率を更新する方法であり、Dawidたちは、Humeの議論がこの厳密な分析アプローチに耐えられるかどうかをの分析・調査している。彼は、ヒュームの議論には欠陥があり、奇跡を信じることに反対するケースは、ヒュームが当初提案したような決定的なものにはなり得ないと主張している。

元の論文は以下の掲載されている。
The Philosophical Quarterly, Volume 39, Issue 154, January 1989, Pages 57–65

論文は大学のデジタル図書サービスを使うことができれば、入手することができる。著名な学会誌なので常備しているところは多いだろう。筆者はオンラインで慶應大学の図書館にアクセスして入手した。

ではこれからパラグラフ毎に徹底的に読み込んでいこう。

原文はこうだ。

A BAYESIAN ANALYSIS OF HUME'S ARGUMENT CONCERNING MIRACLES

Humeが行った奇跡に関する論述をベイズ理論の立場から検討しよう、というタイトルの本である。

Humeについて簡単に説明しておく。

哲学者の業績とその評価については
Stanford Encyclopedia of Philosophy
を参考にする。このサイトは非常に注意をはらって、現状でわかっていることを正確に説明してくれる。哲学に限らず認知科学も含めて多くの人文社会学的な百科事典的な情報に関しては、できるだけこのサイトをつかって学んでいくのがいい。なんどもこのサイトには戻っていくが、とりあえず、最初のパラグラフを引用しておこう。

Generally regarded as one of the most important philosophers to write in English, David Hume (1711–1776) was also well known in his own time as an historian and essayist. A master stylist in any genre, his major philosophical works—A Treatise of Human Nature (1739–1740), the Enquiries concerning Human Understanding (1748) and concerning the Principles of Morals (1751), as well as his posthumously published Dialogues concerning Natural Religion (1779)—remain widely and deeply influential.

とある。ざっくりと訳しておこう。

デイヴィッド・ヒューム(1711-1776)は、英語で書かれた最も重要な哲学者の一人として一般に認められており、同時代には歴史家、エッセイストとしても有名であった。
『人間本性論』(1739-1740)、
『人間理解に関する探究』(1748)、
『道徳原理に関する探究』(1751)、そして死後に出版された
『自然宗教に関する対話』(1779)

は、あらゆるジャンルで優れた文体を持ち、今も広く深い影響力を持つ哲学的な代表作です。

とりあえず、このくらいの予備知識で論文を読み進めることにする。最初のパラグラフは以下である。

There have recently appeared in The Philosophical Quarterly two  interesting papers attempting to give a Bayesian analysis of Hume's  argument concerning miracles.' In the present paper we shall attempt to  give a shorter and simpler treatment of the question, and one which  think, makes clearer the difference between Hume and his contemporary  critic Price. Our analysis is based on a general Bayesian account of  testimony given by Dawid.2 In the course of expounding it, we shall  explain the points where it differs from the earlier analyses of Sobel and Owen.

さて、これが前書きなのだが、二つ論文に言及している。見ておこう。
1.Sobel, J. H., 'On the Evidence of Testimony for Miracles: A Bayesian Interpre David Hurme's Analysis', The Philosophical Quarterly, 37, pp. 166-86; and David Owen, "Hume  versus Price on Miracles and Prior Probabilities: Testimony and the Bayesian Calculation', The Philosophical Quarterly, 37, pp. 187-202.

2 Dawid, A. P., 'The Difficulty About Conjunction', The Statistician, 36(1987), pp.91-7

である。ここに言及しているので、Sobel とOwenの論文とは違う視点でこの論文ではHumeとベイズ確率的思考つまりPrior Probabilities 事前確率にかんする著者独自の展開をするぞ、とパラグラフの最後でのべている。細かく言うと、脚注なので、そこまで読んでいることを読者に要求している。人文系の論文の書き方の一つである。ではかれの主張はそれは何か? 読み進めていこう。

今回はここでおしまいである。この論文を図書館から入手する方法を検討して、実際に入手してもらいたい。それを前提に二回目を行う。

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