思惑と不安と目的と喜び。
サイゼリヤで、クラムチャウダーを食べながら、ドリンクバーで次何飲むか考えていると、
「いやいや、俺を信じなよ。始めなきゃ何も動き出さないんだからさ」
「だって、そういうこと私分からないし」
「大丈夫だって、俺が全面的にサポートしてやるからよ」
「本当に?」
「世の中の仕組みってのは俺が一番理解してんだよ」
「うまいこと言って、なんか騙そうとしてない?」
「そんなことするはずがないじゃない」
と、なにかの勧誘をしている声が聴こえた。
ふと、そっちに顔を向けると、学校で人気者の先輩、曜子さんが、隣町で評判が悪い、不動産屋の店長と話し込んでいた。
「……」
なぜ?
あの不動産屋の店長、昔、結構羽振りが良くて、有名人と飲み歩いてチヤホヤされてたけど、人の悪口ばっか言いまくって嫌われた挙句、マルチ商法の詐欺で捕まったとか言われてた奴じゃん。
「で、私をモデルで売り込んだって、可愛い子はいっぱいいるじゃない」
モデル? 曜子さんがモデル?
「大丈夫よ。俺、知り合い多いし、任せとけって」
いやいや。
って、いやいや。
僕は、ドリンクバーへ炭酸水を注ぎに行くと、同級生の咲子が、カップにホットコーヒーが注がれていくのを眺めていた。
「あ……」
「あ」
咲子は曜子先輩の妹だった。
普段は、会話したことはない。
けど、心配だったので、「あれ、知ってる?」と、目配せしてみた。
咲子は苦い表情をして、頷いた。
「もし、少しでも変なことしたらって、私はいつでも準備万端」
と、咲子は言った。
「え、あ、じゃあ、その時は手伝うよ」
「ありがと。でも、店長は自分のことで頭がいっぱいの人だけど、ギリギリ、最後に意地を見せたがってる人でもあるから、様子見なの」
「ふーん」
僕は、自分の席に戻り、また曜子先輩と店長の話に耳を澄ませた。
とりあえず、小汚い恰好で、腕組んでいる店長を、「ぬいぐるみ」と思うことにした。
父親がはまってた「saku saku」のジゴロウと木村カエラだと。
ジゴロウは言葉は汚かったけれど、ぬいぐるみのフィルターを通すことによって、パワーを得ていた。
店長をぬいぐるみだと思えば、ビッグ発言もまた、愛らしく見える。
いっそのこと、本当にぬいぐるみになればいいのに、と思った。
そういや、ジゴロウは、デザインの権利がどうたらで、ぬいぐるみだけ変えられてたなぁ。と思い出した。
ふと、斜め前を見ると、咲子が無表情でスマホをいじっていた。
「……」
僕は、咲子と共通の目的が出来たことを少し嬉しく思っていた。