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才能がない人。
まあ、才能がないのだろう。
彼は写真を撮ったり、絵を描いたり、詩を書いたりして、ネットに載せていたりするのだけれど、全く話題にもならなかった。
そういや、彼はまだ書いているのかなと、たまに写真や絵を載せているインスタをのぞいたり、詩を呟いているTwitterを見に行ったり、それらを紹介している彼の自作の動画をYouTubeに見に行ったりするのだけれど、まったくもって誰にも興味を持たれている様子はなかった。
「そうそう、誰も見てくんないの」
と、彼は、笑った。
楽しそうではある。
僕は彼とは二十年来の知り合いで、その昔、深夜コンビニのバイトでよく一緒に入っていた。
僕は大学を卒業してから、就職して、結婚して、子供は小学生で、先の長いローンを抱えていた。
彼は、バイトを転々としながら生活をしていた。
「才能がないんだからさ、そろそろ落ち着けよ」
「人に興味がもたれないのと才能は関係ないのさ」
と、彼特有の理屈を言う。
「空の写真を撮って、タイトルが『空』とか、『歩いた。下は土。土だなぁと思った』って詩。これで誰が喜ぶんだよ」
彼はよく言う、「まあ、いいじゃん」と。
「そこら中に、興味沸くような凄いものがゴロゴロしてるんだから、俺にそれを求めるなって。もうあるんだからさ」
「じゃあ、なんでやってんの?」
「別にカッコいいこと言って君を説得するつもりはないんだけどさ」
「うん」
「誰にも興味を持たれていないってのは、誰も興味を持たないようなものに俺が興味があるってことでさ。つまりは、よく君に言われる、その才能ってのはたぶんないのさ」
「それって意味ある?」
「え、楽しいじゃん」
「惨めじゃないの?」
「そもそも誰も見てもいないのに惨めになりようもないさ」
と、ケラケラ笑った。
「空撮って、タイトル空ってむちゃくちゃ面白いじゃん。しかも、誰も見ないっていう。こんな平和なことあるかっての」
コンビニで一緒に働いていた時、たまに彼の言動にドキッとしていた。
「見えているものがどう見えるかが、幸せを決めるのさ」
と、酔っぱらって吐き散らして寝ているお客を介抱しながら彼が呟いたことがある。
僕はたまに気になって彼が世界をどう見ているのか、その作品を見るのだけれど、さっぱり理解は出来なかった。
だから、彼が幸せそうなことに、僕は少し怯える。
僕は何が見えていないのか。
「才能がない。上等じゃん」
そう言って彼はまた笑う。
まあ、いいのか。
つまり、幸せに才能はいらないのだろう。
僕もいつしかつられて笑っていた。
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