震えている。
電車に揺られながら、少しだけ長く目をつぶった。
電車が茅ヶ崎駅のホームに到着し、扉が開き、人の気配が行き交うのを感じて目を開ける。身体の疲れが軽くなった気がした。
カフェに入ると三人ほど並んでいて、順番を待った。
「アイスコーヒーください。PayPayで」
「クーポンのご利用はございませんか?」
「はい」
「かしこまりました」
PayPayのバーコードが表示されたスマホを差し出すと、バイト(たぶんそうだろう)の女の子がレジのバーコードスキャナーを当てる。
その手元が微かに震えていた。
あ、震えている。
と、僕は思う。
そこに僅かな空気の振動のようなものを感じ、表情には出さないように注意しながら、僕はその空間を好意的に受け止める。
アイスコーヒーを受け取り、椅子に座り、周辺を軽く見回してから少し落ち着くと、「あまり馴染みがない世界」で、「震えている」について考えた。
世界が友好的に感じられる瞬間。
もしくは不寛容と感じられる瞬間。
それほど「怖くない」を確認し、ここのスペースでは溜息を吐いていいと覚え、この相手になら、ここまで微笑んでいいのだと知る。
経験が十分でない時の、不安定と、動揺。
「怖い」なんて、いつまでも言ってられない。
ずっと同じではいられない。
あのバイトの女の子も、まだ2才ぐらいのとき、何歩か進んで、ペタンと転んだりとかしたのだろうなと考えたりした。
声を出して泣いて、誰かが手を差し伸べてくれたりしたのだろう。
震えている。
「……」
僕は指を動かし、緊張を逃がすように掌を少し擦った。
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