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体温、吐息、汗、笑顔。 好きかも。
一瞬、触れた。
プリントを渡される時に、彼女の手が、僕に触れた。
温かいような気もする。
温もり。
その余韻のような記憶を、辿りながら、僕は結局授業中、彼女のことばかり考えていた。
彼女は、会話するときや、何かしら行動するときなどに、距離感が近い。
近視なのだろうか?
「ほら、これ」
と、スマホに書かれたネット記事を見せてくるときなど、僕がのぞき込んでいるすぐ横に顔がある。
ふと、横を見たい。見てはいけない。
「……」
好きかも。
「ね」
と、彼女が僕の方を向いて、言っている。
その瞬間、吐息が僕の頬に当たる。
「そうかも」
と、僕は曖昧な答えをして、好きかもと、思っている。
帰り道、歩いていると、横を走って通り過ぎる人がいて、
立ち止まった。
彼女だった。
「あ、偶然」
と、言って、彼女はニコッと笑った。
首筋から汗が流れていた。
「なに、急いでるの?」
と、僕が訊くと、
「うん、またね」
と、彼女はまた走っていった。
彼女が視界から消えるまで、その後姿をずっと眺めていた。
好きかも。
体温、吐息、汗、笑顔。
好きかも。
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