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チっと、舌打ち選択。
喫煙所にはぐれものがいた。
はぐれものは煙草を吸いながら、不機嫌な表情をしていた。
もちろん、僕は「不機嫌そうですね」なんて訊かない。
それほど親切ではないのだ。
不機嫌な人は、当然、不機嫌ではない表情もできる。
つまり、不機嫌な表情で人前にいるということは、不機嫌な状態でいる自分を選択しているわけでもある。
はぐれものは、
「チっ……」
っと、舌打ちをした。
聴こえてるよ。と、僕は思うけれど、聴こえない振りをした。
僕は、喫煙所の斜めにある窓掃除作業をしながら、ここを終えたら休憩時間だなんて思っている。
目ざわり。と、思われることがよくある。
あからさまに言われることもある。
眺めながら、
「最近窓ふきロボット出たの知ってる?」
なんて、会話を始める人もいる。
作業員は無抵抗であれと、譲っているのは「俺たち」で、「作業員」はお邪魔しているのだと。
謙虚にしろ。と、プレッシャーを向けられたりする。
喫煙所に、もう一人のはぐれものが来た。
はぐれものははぐれものに、
「どんどん隅っこに行かされるな」
と、言い、
「いつだって辞めてやるってんだよな」
と、なにかを小ばかにするように言い合った。
僕は、作業を終え、喫煙所を離れた。
「いつだって辞められる……」
と、呟いた。
つまり、続けているのは続けている状態を自分で選択しているわけでもある。
僕は、舌打ちをしてもいいけれど、しないことを選択した。
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