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それは愛すべき世界。
よく怒っている清掃のおばちゃん。
僕らが仕事していると、ゴミを回収してくれたり、机を拭いてくれたり、掃除機をかけてくれたりと、
「あー、もう、これ」
とか、
「なにっ、あっ」
とか、
「ふぅふーぅー」
とか、声を出しつつ、バンッとか、ドンっとか、音を出して、掃除をしている。
一瞬、こちらがどいて、
「ありがとうございます」
と、言って、「いいえー」と、言われた後に、仕事へ戻る。
別に邪魔だとか、今かよとか、目障りだとか、存在がうるさいだとか、お仕着せがましいとか、静かにやれないのかとかではなく、僕が気になるのは、
「あ、もう鼻紙がいっぱい」
と、「ティッシュ」を「鼻紙」と言うところにある。
鼻紙。
鼻紙と言ってる。
と思う。
なので、軽く「鼻紙」というワードを聴きたがっている自分がいたりして、ゴミ箱にティッシュを忍ばせておく。
「凄い鼻紙いっぱい」
と、聴ける日もあれば、無言で片づけられる日もある。
それは今、「ティッシュ」と言われているのですよ。
と、伝えたい衝動を感じつつ、「鼻紙」のまま清掃のおばちゃんの世界は進んでほしいという気持ちもある。
「あぁっ」
ドンっ、カチャ、ブゥォォォォッッッン。
と、音を出しながら、僕は「鼻紙」について考える。
「ああ、鼻紙」
と、おばちゃんが言う。
そうだ。そうだろうよ。
と、僕は思う。
僕は、おばちゃんが去ったオフィスで、鼻をかみ、机を拭き、清潔ぶって、頬杖つくときに顔に当てたりと、セッセとティシュを使う。
鼻紙……。
ハナガミ。
Hanagami
さて、と、仕事へと戻る。
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