これ。【短編小説】
僕は今、山梨県の山奥にあるウィークリーマンションで過ごしている。
二週間ぐらい過ごそうと思っていて、出来るだけ遠出をしないように心掛けている。
ただ、場所を変えたかった。本当にそれだけの理由だった。
どこかで刺激的なものに出会いたいとか、観光地を巡りたいとかそういうことではなく、「場所」が違うところで、ただ留まりたかった。
部屋に入ってしまえば、どこでも似たようなものかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
僕の仕事はパソコンがあれば成り立つので、簡素なウィークリーマンションの中で、ジッとパソコン画面を眺めながら、作業に没頭する。
「……」
少し疲れて、寝転がる。
静寂。
静寂にも「場所」によって「気配」がある。
この部屋の静寂はとても軽く、乾いているが、少しだけひんやりしている。
そう感じるだけ。そういうことが目的なのだ。
あまり邪魔をされることなく、「場所」による、僕の心地良さを探る。
多分疲れているのだろう。
隔離して、他人からすれば意味のないと思われるような物事をすることにより、回復を求めている。
けれど、回復を求めるとまた、回復は逃げてしまう。
僕はパソコンに、
「これが好き」
と、打ち込む。
一瞬、「これ」が現れる。
懐っこい仔犬のような「これ」が浮かぶ。
静寂。
僕はまた横になり溜息を吐き、目を瞑った。
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