伝説の男。
「これが、最後の戦いになる」
伝説の男は、そう言って訪ねてきた少年の肩を叩いた。
伝説の男。
彼は、二十年前に北陸地方の海に生息している、謎の巨大魚を釣り上げた男として知られていた。
釣りに出た男は、その巨大魚と、三日間も格闘を続け、最終的に釣り上げた。
最初は、みんな男を讃えたが、その年は悪天候が続き、台風被害も起き、
「あの巨大魚を釣り上げたからじゃねぇのか?」
と、誰かが言ったことから、その男に対する風当たりが強くなり、結局彼は町を出ていくことになった。
巨大魚は、町人でバーベキューしたり、鍋に入れたりと、三日にわたり、宴会をして食べた。
「勝手なもんだよな。うまそうに食ってたじゃねぇか」
と、男は思った。人間が勝手なものだっていうのを、身に染みて感じ、人嫌いになっていった。
海からずっと離れた、山に小さな小屋を借り、静かに一人で暮らしていた。
そこへ少年が訪ねてきた。
母親が病気。その病気は奇病で、原因不明。
同じ症状だった人が、回復した例が一つだけあった。
それは、「あの巨大魚を食べたからじゃないか」と、言われていた。
そして、伝説の男を探しに来たのだ。
「いや、自分で釣りに行けばいい。出会えるか出会えないかは、俺にだってわからない。それに、あの町へはもう行きたくないんだ」
「あなたは、来てくれるだけでいい。釣るのは僕がやります。ただ、あの日の状況を僕は再現したいのです」
少年は既に、何度も伝説の巨大魚を釣ろうとチャレンジしていた。
けれど、一度も釣るどころか、出くわすことさえできなかった。
少年の必死な願いに押され、
「まあ、役に立つかどうかは分からねぇけどさ」
町へ戻り、少年と海へ出た。
そして、一週間後、謎の巨大魚が現れた。
「来たぞ!」
伝説の男は、少年の腕を掴み、必死でサポートした。
「釣るぞ!」
長時間の格闘の末、巨大魚を釣り上た。
「よく頑張ったぞ!」
少年の母親に食べさせた。
奇蹟は起きた。
少年の母親は、回復し、みんなが喜んだ。
が、またしても自然災害が起こり、町を襲う。
少年と母親に非難の目が向けられそうになったとき、
「勘違いすんな、あれは俺が釣り上げたんだ。こんなガキが出来るわけねぇだろ」
伝説の男は静かに町を去った。
「やだやだ」
と、伝説の男は呟いた。