横断歩道までそんな遠くはない。
バス停。
バスが来るのを待っていると、おばちゃんが自転車でやってきて、道路の向こう側へ渡るために、停まり、車が無くなるタイミングを待っている。
意外と車が途切れない。
少し身を乗り出し、今かなって、感じにはなるのだけれど、なかなか渡れない。
バスがやって来て、僕は乗り、その場を後にした。
夜。
仕事からの帰宅。
バスから降りると、反対車線、おばちゃんが、まだ自転車で渡れず、車を見送っていた。
いやいや。
嘘でしょ。と、思うのだけれど、紛れもなく今朝のおばちゃんだった。
まあ、何度か渡って、戻って、また渡ろうとしているのかもしれない。と、それほど気にすることなく、帰宅。
翌朝。バス停。
おばちゃんが、まだ自転車で反対側へ渡れず、車を見送っていた。
「……」
服装も、昨日と同じ気もする。
けど、いやぁ、と。さすがに、車も途切れるでしょと、思うのだけれど、意外に途切れない。
「……」
一年が過ぎた。
おばちゃんはまだ自転車で反対側へ渡れないでいた。
特に誰も気にしている様子はなかったので、僕も気にするのは止めようと思っていた。色々とあるのだろう。
三年が過ぎた。
おばちゃんはまだ渡れないでいた。
意外と健康そうに見える。不眠、不休で、食事もしないで、三年も車を見送ってるわけはないのさ。
と、僕も納得していた。
すると、小さな花束を持った制服を着た少女が現れ、おばちゃんの横に立った。
「え?」
僕は、この三年で、はじめての展開にドキドキした。
制服を着た少女は、おばちゃんの足元に花束を置き、そして、うずくまり手を合わせた。
おばちゃんは、キョトンとした表情で少女を見ていた。
その瞬間、自転車はグニャグニャに曲がり、おばちゃんの横でバタンと倒れた。
少女が立ち上がると、その後ろをおばちゃんがついていった。
「お……」
ねえ、今の誰か見てた? と、僕は辺りをキョロキョロ見るのだけれど、誰も気にしている様子はなかった。
今日は、近くの中学校で卒業式。
僕は「卒業」と、小さく呟いた。