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夢を見失う。


バスが来ない。
寒い。
慎太郎は、スマホでイヤホンから流れる浅香唯の「Believe Again」をリピート再生しながら、自分に今「夢」がないことについて考えていた。

慎太郎は一週間前に、唐突に悩みが消えた。
悩みの七割が「過去の後悔」。あとの三割が「未来への不安」だと肉屋の大将から聞かされ、
「だから過去のことを忘れてしまえば悩みの七割は消えるってことさ」
と、唐揚げと豚バラ肉を三百グラム買わされた。
慎太郎はコロッケ一つ買って夕食にしようとしていたところ、そんな話になった。

慎太郎は意識的に、「過去の後悔」について掘り返し、そして、過ぎたことを一つ一つ確認していった。
そしてもう、戻ることもない時間であることを理解した後に、忘れても良いことだと理解した。

ある程度、引っかかっていた卑屈さみたいなものが、どうでもいいことのように思えたとき、

「で、僕は何がしたかったんだっけ?」
と、自分に夢がないことに気がついたのだ。

過去への卑屈さ、後悔ばかりに怯えて、それから逃れるように生きていた慎太郎にとって、過去を切り離すことは驚くぐらいの身軽さであったと同時に、拍子抜けするぐらい、自分の空っぽさを意識することでもあった。

慎太郎は、なぜ自分は「Believe Again」をリピートしているのだろうかと思った。
ただ、そうしたかったのだ。
心地良さ。そこに意味はあるのだろうか?

「新しい風で満たしたいよ……」
と口ずさみ、そのフレーズを待っている自分に気づいた。
夢が欲しいという夢があってもいい。

「ツライ夜は長く続かない……」

そう呟いた時、バスが到着した。



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奥田庵 okuda-an
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