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むかしむかしあるところに。


彼は唐突に、「理解」してしまった。
そして、何も求めることが無くなってしまった。

それは、どこかで望んでいたことだったし、そんな日が来てしまうことを恐れていた部分もある。

彼は、随分昔、まだ少年だったころ通った、紙芝居部のキャプテンであった瀬戸際君を訪ねた。
「どうしよう、キャプテン僕は、もう、どうしたらいいのか分からない」
瀬戸際君は、
「そんなことは俺だって分からないさ」
「じゃあ、キャプテンはどうするんですか?」
「どうもしないさ」

そう言うと、瀬戸際君は、紙芝居を引っ張り出してきて「泣いた赤鬼」を始めた。

―― 赤鬼は、村人と仲良くなりたい。それを青鬼に相談。青鬼の提案。青鬼が村人の前で暴れて、赤鬼が退治する。その作戦は見事に成功。赤鬼は村人と仲良くなり、青鬼にお礼を言いに行くと、手紙が貼ってある。君が僕といるところを見られると、台無しになるから、僕はここを去るよ。さようなら。そして赤鬼は泣いた。

彼は瀬戸際君の紙芝居を見ながら、泣いた。
瀬戸際君は彼を見て言った。

「まだ、間に合う。きっと」
「間に合う?」
「君が『理解』したことは、たぶん、青鬼の優しさのようなものなのさ」
「……」
「だとしたら、求めることよりも、大事なことは……」
「……」

彼は、小さく頷き、瀬戸際君と別れた。
瀬戸際君は、彼の背中を眺めながら呟いた。

「めでたし、めでたし……か」





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奥田庵 okuda-an
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