隠し撮り。
雅史は父親と仲が悪かった。
父親が死ぬまでの十七年間、連絡をとらなかった。
八年前に一度だけ、知らない番号から留守電が入っていて、
そこに、
「おい、元気か?」
と、謎の伝言が入っていて、
しばらくして、「ああ、父親か」と気づき、着信拒否にした。
雅史の父親は埼玉県の風呂なしのアパートで、一人暮らしをしていた。
そして、死んでしまった。
年金生活。
死体は既に焼かれ、骨壺に収められているらしい。
アパートの管理人から依頼を受けたという何でも屋から連絡を受け、
引き取りに行った。
雅史は、部屋に入り驚いた。
汚く混乱した部屋を想像したのだけれど、モノがほとんどなかった。
段ボール二つに収まるような具合。
片づけはあっという間に終わった。
「ん……」
物置の片隅に新聞紙に包まれ、ガムテープで開けないようにしている、小さな塊を見つけた。
中を開けると、ビデオカメラだった。
カセットテープタイプのビデオカメラ。
雅史は骨壺と、荷物を車に積み、自分のマンションに戻り、そのビデオカメラで撮られたであろう映像を見た。
そこに映っていたのは、
子供とキャッチボールする親子らしき映像。
それも隠し撮り。
「なんだこれ」
こういう光景に憧れていたのだろうかと、なんとなく見ていると、
そこに写っていたのは、自分と父親だった。
子供の雅史は、嫌だとキャッチボールを拒否しているのだけれど、父親はとにかくしかりつけて、ボールを捕れと話しているようだ。
その記憶が全くない。
そのうち子供はグローブを投げ、走ってどこかへ消えてしまった。
立ち尽くす父親。
しばらくしてカメラのほうへ歩いてきて映像が消えた。
「なんだよ。こんな映像残しやがって」
雅史は、こんなものを大事にしているからって、理不尽だった父親を許すもんかと、思った。
立ち尽くす父親の映像が頭に残る。
自分の理想が叶わなかった瞬間の当てつけか?
と、何かしら文句を見つけたいと雅史は思った。
「絶対に許さないんだ……」
そう、口にしながらも、涙が止まらないでいた。