ROE重視は良いのか?
金融教育の専門家、遠藤です。
2023年春に東証から「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応の要請」がありました。PBR1倍以上への要請、という受け取り方をされた人も多いと思います。
それがきっかけというわけではないですが、各企業の経営計画を見るとROEの目標を定めるのが常識になっています。
「株主資本利益率が株主資本コストを超えるように経営する」
これは、上場企業の使命となっています。
ただ、私がFPという立場で「働く人々」と対話をするとこの利益至上主義、投資家至上主義のおかげで苦しんでいる人が多いことに気付かされます。
外面的には増収増益の企業で、平均年収が右肩上がりの企業に勤めていても、「しんどさが年収の増加に勝ってる」という企業は少なくありません。
業界最大手の企業でも自発的な離職はあります。
利益至上主義に走るというまでもなく、歪みが起きやすくなります。
品質不正問題は枚挙にいとまがありません。
「早く新製品を作れ。俺たちは今期の目標のために売りまくらないといけないんだ」という号令が、不正を起こします。
金融機関が起こした仕組み債問題(リスクの高い仕組み債を顧客の理解度をないがしろにして販売していた問題)もまさに利益市場主義が作り出した産物です。
超長期労働による過労も社会問題となっています。
就業不能時を保障する保険の中には、ケガや病気だけでなく、精神疾患の保障が付いた商品が販売されています。それだけ病んでしまうことの保障にニーズがあるということです。
ここまで述べておいてなんですが、私自身は利益至上主義は賛成派です。
なぜなら投資家として株式投資の利益を得たいからです。
また、各企業が付加価値を生み出すことは、より豊かな世界を作るために大切なことだと思います。
ただ、「法や秩序を無視してまで利益を上げるのはよろしくない」ということです。ESGに反することをしている企業に投資したいとは思いません。
脅迫ギリギリの強引な販売、虚言ギリギリの営業トーク、不良品ギリギリの劣悪品質、メリットは大きくデメリットは小さく書いた広告、過労ギリギリのサービス残業、パワハラギリギリの社員への叱責、このようなことをしているとギリギリを超えて違反になります。
内部告発で悪さはすぐにバレます。
このようなことを起こさないようにするためには、投資家が長期投資目線を持つ必要があります。
「今期は減益だけど仕込みができているから数年単位なら面白そうじゃないか」
「赤字でボーナスカットなのに社員が辞めないこの会社は底力がすごいぞ」
このように会社を評価する長期投資家が多くなれば株価は安定するはずです。経営者も「我が社の株主はしっかり説明すればわかってくれる」という認識があれば、地に足がついた経営ができます。
企業は長期投資家を大事にすべきです。
株主優待に長期保有条項をつけている企業は素晴らしいと思います。
最近は学校でも投資教育が広がってきていますが、単にお金の増やし方を学ぶのではなく、利益至上主義の資本主義経済において、どうやったら歪みを起こさず持続的な成長が続けられる企業を作れるのか、そのような企業は実際にあるのか、といったことを研究する授業を取り入れると良いと思います。
株式投資は、未来のカリスマ経営者を育てる教育コンテンツにもなりえます。
(遠藤)
[遠藤 功二氏 プロフィール]
日本FP協会認定CFP
1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)
MBA(経営学修士)
大学時代に借金に追われた経験からFPの資格を取得し、金融機関に就職。
証券会社と外資系銀行で延べ1,000人以上の顧客を資産運用アドバイザーとして担当した経験上、日本には金融教育が足りていないことを確信する。
自己責任が求められる社会で、子供たちが自立して生きていけるよう、お金の教育講座を実施している。子育て世代の親たちと子供たちに、金融の知識を届けるため教育特化のFPとして奔走中。
子育て世代のための金融教育サービスFP君
web:https://fpkun.com
メッセージ:koji.endo@fpkun.com
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