ー 最近、観た映画 その2ー
"戦場のメリークリスマス"(1983)
最初に公開された’83年に一度観て、それから40年経った年に、また、劇場で観る事になるとは思わなかった。パンフレットには、"戦闘シーンのない戦争映画"、みたいなことが書かれてある。この映画の舞台は、第2次世界大戦中のジャワ島の日本軍の捕虜収容所であるが、戦闘シーンを描いたものではない。収容所の中で生活している日本軍の兵士と捕虜との間で起こる問題に対する確執が、描かれている。
捕虜収容所という生死が隣り合わせの極限の状態の中で、物語の随所に見られる真理をついたセリフとか、キャストが全員男だけとか、原作を読んだ事がないので、監督がどういう意図で表現しているのかわからない。
個人的には、この作品は、戦争映画という範疇を超えていると思う。日本人とイギリス人の戦争に対する考え方の違いなど、作品から取り上げるべき題材は、多々あるが、この収容所に運ばれてきたデビッド・ボウイ扮するジャック・セリアズ少佐の良心の問題について少し触れてみたい。
ー ジャック・セリアズ少佐の良心の呵責ー
収容所に運ばれてきたジャック・セリアズ少佐は、日本語のわかる捕虜として連絡係を務めるロレンスと知り合いだった。ロレンスとセリアズは、収容所の中で反抗的な態度をとり、責任者の坂本龍一扮するヨノイ大尉を怒らせてしまい独房に入れられてしまう。二人は、過去の事を話し合うが、セリアズは少年時代の弟との思い出を語り始める。弟は、歌がうまく、他の少年たちとの他愛のないケンカの時も弟を助ける優しい兄だった。弟がパブリックスクールに入る時、兄のセリアズは、成績優秀な寮長だった。パブリックスクールでは、"歓迎会"とは名ばかりの"いじめ"が行われる。弟に、完璧な人間でいて欲しいと思う兄は、弟がいじめられている最中に、"兄さん、助けて"と叫ぶ声を耳にするが無視してしまう。この日から弟は、二度と歌を歌う事はなかった。セリアズはこの出来事以降、心に重荷を背負う事になる。
ー 物語の結末ー
クライマックスのシーンでヨノイ大尉は、イギリス人の俘虜長に、捕虜全員を一人残らず集めるように命令する。病人以外の俘虜が集まったが、大尉は病人も全員集めるように再度命令する。大尉は、俘虜長に武器に詳しい俘虜の事を何度も聞いているが、一向に答えようとしない。激怒したヨノイ大尉は、自ら刀を抜き俘虜長を処刑しようと決意する。
その時、セリアズは、ヨノイ大尉の前に立ちはだかる。セリアズには、パブリックスクールの"歓迎会"で弟を助けなかった事が、オーバーラップして脳裏をよぎったのではないか。
セリアズは、ヨノイ大尉に対する無礼で生き埋めの刑に処せられる事になり、ほかの俘虜達が讃美歌を歌う中、弟の事を思う。
それから数年経ち、日本軍の敗戦が決まるとヨノイ大尉は処刑され、ビートたけし扮するハラ軍曹も処刑される事にやる。なんともやりきれない結末ではあるが、訪れてきたロレンスに、次の日の明朝に処刑される事になったハラ軍曹が、満面の笑顔で"Merry Christmas Mr Laurence."と言葉をかける。それによって作品を観ている者は、不思議な安堵感みたいなものを感じることで、物語は、エンディングを迎えることになる。