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短編小説『一人ぼっちの寂しい帰り道』

オトーサンに会えない。

オトーサンは本当のお父さんではありません。

本当のオトーサンは、ワタシの高校の入学式の日に、過労死で 失くしてしまいました。

幼い頃は、仲の良かったお父さん。

でも、思春期になるにつれて、段々と避けるようになってきました。

結局、心が離れ離れになってしまったままで、逝ってしまった。

お父さんがいなくなって、ワタシの心の中にぽっかりと空洞が出来ました。

それは、大人になるにつれて段々と大きくなってきます。

ワタシはずっと、この喪失感を背負いながら生きてゆくことに虚しさを感じていました。

そんな時に、オトーサンと出会いました。

オトーサンは、同じ会社の大阪支社長です。職場で一番偉い人です。

名古屋から単身赴任で来ていて、たまたまワタシと同じ駅でした。

ひょんなことから、話すことがあって、色々とワタシの話を聞いてもらいました。

ワタシと同じ年頃の娘さんがいらっしゃるそうです。

会社で見るのとは違って、やさしくて繊細な人です。

神様が、お父さんの代わりにオトーサンを与えてくれたような気がします。

オトーサンといると本当に心が落ち着きます。

オトーサンは、ワタシの心の中の空洞をゆっくりと埋めてくれます。

先週末、私の部屋に来てもらって、手料理を食べてもらいました。

そのお礼が言いたくて、帰り一緒になるいつもの地下鉄に乗ろうとしてホームに来ています。

込み合うホームの雑踏の中に、オトーサンを探すけれども姿は見当たりません。

遅れてくるのかしら。

押し込まれる乗客や乗降口の僅かな隙間を見つけて、無理やり乗り込んでくる乗客を横目に見ながら、いつもの電車を乗り過ごしました。

オトーサンがいない。

すぐ後からやってきた新大阪行きに乗り込む。

先程の電車とは違って、比較的すいているので座れた。

ダメと分かっていても、車内にオトーサンを探してしまう。

オトーサンのいない車内は落ち着かない。

忘れ物をしたような気がするけれども、それが何か思い出せないままにいるような気持のままいつもの駅で降りる。

駅前のスーパーマーケットに入る。

オトーサンと一緒に買い物をしたところ。

いないと思っていても、オトーサンを探してしまう。

子供が百貨店のおもちゃ売り場に来た時のように目を輝かせて、食品を見て回るオトーサン。

残像が、そこかしこに現れる。

オトーサンに会いたい。

あの日と同じように脇道にそれた同じ道。

何度も振り返るけど、オトーサンはいない。

夕暮れの空を見上げる。

今見ている空と同じくらいの空間が私の中に出来ている。

体中の力が抜けてしまったみたい。

夕暮れの空を見ていると訳もなしに、高校の頃一緒にバンドを組んでいたヤマギシ君のことを思い出した。

ヤマギシ君今頃どうしているのだろう。

こんな時ヤマギシ君がいてくれたらなと思う。

いつの間にか、あの歌を口ずさんでいた。

空を見上げると、雲が滲んで見えた。

自然に涙が溢れてくる。

誰かにすがりたい。

そして、思いっきり抱きしめられたい。

今まで一人でいることに慣れっこになっていたはずなのに、今日の帰り道は寂しさを感じる。

一人でいることに疲れてきたのかもしれない。

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