起立して見える世界

タイでは、朝の８時と夕方の６時に国歌が流れる。

駅、学校、お店、公園。テレビやラジオ。
乗り物に乗っていたり大通りを歩いていると気づかないけれど、色々開けっぱなしの家がある場所ではどことは知れず聞こえてくる。

国歌が流れたら、起立する。
さっきまで動いていた人波が止まる。
随分と見慣れたけどまだちょっと不思議。

忙しい朝の駅。改札の手前で、奥で、階段で立ち止まる人々。
夕方公園で遊ぶ子供たちが、ベンチでくつろいでいた人たちが起立する。
国歌が終わるまで。
そして終わった途端に動き出す。
数分の間時が止まって国歌だけが流れる、この光景が割と好き。

でも、立ち止まらなくたって誰も怒らないし、急いでる人は立ち止まっても待ちきれなくてフライングして歩き出すけど、それだって別にだーれも気にしてなくって、それがまたいいなって思うの。

バンコク中心地へ向かう電車はとても混んでいて、たまに入場制限したりトラブルで電車が止まっちゃったりして、駅の階段の下まで人が並んでることもあるのだけど、
そういう時スマホをいじりながらのほほんと待ってるタイ人すごいなって思うんだよね。
イライラしてる人を見かけない。駅員に詰め寄る人なんてもちろんいない。いる訳ない。

多分こっちの方が普通なんだろうけど、そうじゃないところから来たので感動してしまうし、うっかり"遅延証明書"なんてものを思い出したりすると、なんという場所で生きていたのかとげんなりする。

タイの人はバスや電車が遅れたり時間通りに来なかったり途中で止まっちゃったりするのに慣れてるからなのかな。
余裕があるっていいなぁと本当に思う。

朝なかなか起きれない次男をベッドで転がしてかわいいかわいいって言ってるといつも家を出るのがギリギリになっちゃって、
学校へ送って行くと８時になっちゃったりして校庭で生徒と一緒に国旗掲揚を見て一礼するハメになる。
それを免れても駅で８時を迎えてしまってわーまた遅刻ギリギリだーって思うんだけど、立ち止まる。

立ち止まって見る景色が好きだ。
自分も周りも止まってる、その、一分一秒を惜しんで先を急がない空気が好き。

そうしてふぅ、とひと息つくと、まぁちょっとぐらい遅刻しちゃってもいいかという気分になって、そんなことよりカプチーノを買わなくちゃと思う。

深呼吸していこうね。

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