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ウイスキーとマヨネーズは同じ【味・香り「こつ」の科学】

今日、自動車免許の住所更新をしてきた。

都会に住んでいる人は持っているのだろうか、自動車運転免許。
一般は青であるとか、いい子はゴールドであるとか、ルーキーは緑であるとか、そんな色の決まりがある例のカード。



身分証としても優秀なこのカードであるが、情報の更新がいかんせんめんどくさい。何が面倒って、警察署か免許センターまで行く必要がある。そして休日にやっている免許センターの所在は、だいたい僻地だ。しかも公共交通機関が発展していないエリア。車で行く前提は勘弁してほしいと、免許を持っていない学生時分にも思った記憶がある。

僕は先日の引っ越しに合わせて、2年ほど乗っていた愛車を処分してきた。なのでやむなく、先日お迎えした自転車で向かったわけだけれど、曇り予定だったのに、めちゃくちゃ晴れてめちゃくちゃ暑い。着く頃には汗だく背中びっしょりアラサーになってて、受付したお姉さんたちも若干腰引け気味だったと思う。日曜日に頑張っているところすみません。。。そんな朝だった。

そして昼過ぎには曇りになるという。なんでやねん。




ところで、先日に引き続きこの本の紹介をしたい。

今回は、本筋の側道として記載のあったコラム……の中にある一説が気になったので、そこの掘り下げをしたいと思う。


【発酵とは?腐敗とは?熟成とは?】


本書は本筋の中にいくつかのコラムが挟まるような構成になっているが、その中の一つに本コラムがある。今回紹介するColumn 5 【発酵とは?腐敗とは?熟成とは?】は、タイトルの通り、混同しがちな3種の反応について取り上げているものだ。

この note にたどり着くような人は、おそらくなんとなく「発酵」と「腐敗」の違いは聞いたことがあるのではないかと思う。人間に有用なものが発酵、害のあるものが腐敗である。

そして3つ目の熟成については、

 ①プロテアーゼなどの酵素によるもの
 ②メイラード反応などの化学反応によるもの
 ③ウイスキーの水和などの物理反応によるもの

と整理されていた。

ここで、「水和って物理反応だったの…?」という大きなつまずきが発生した。水和って水酸基にプロトンがくっつく反応では…?あれ、大学ではそう習った気がしていたけど…?

こうなってしまったらそこから後の文章はなーんにも入ってこない。というか、H2Oが分子的な反応してるなら化学反応っていうのではないの?化学の教科書には水素結合とか載ってるじゃん?



真実を見るために、まずは水和についての定義を調べてみた。

① 水中に分散している粒子、水溶液中の溶質やイオンまたはコロイド分子が、溶媒である水の分子と結合している場合か、強い相互作用下にある現象。
② ゼラチン、澱粉などがゲル状になって、ゲル内部の水がほとんど結合状態にあること。さらに広く結晶水の水、固体表面のぬれまで含めていうことがある。
③ 不飽和結合に水が付加する反応。たとえば、エチレンに水が付加してエチルアルコールになる反応など。

出展:精選版 日本国語大辞典

難しい言葉が多くて、なんか化学反応っぽい。だけど化学反応は物理学とも密接に関わっているから、物理反応といえば物理反応なのか…?上記の定義の中だと③が今回の話に当てはまりそうな雰囲気がする。

もしくは、ウイスキーについての水和という現象が特異的に物理的なものなのかと思い、もう一度調べてみた。すると以下のような内容が出てきた。[1]


めちゃくちゃ化学反応っぽいやないかい!!!!!!!!


と思いながら読み進めていくと、どうやらざっくり言えば「アルコールと水はお互い結合し合って溶けるのではなく、図3(上の画像の2枚目)のようにそれぞれ集団を作って、絶え間なく入れ替わり、連続しているらしい」ということが書いてある。簡単に言うのもむずい。

要するに、水とアルコールは溶け合ってkいない!マーブル状のイメージ!そして水は、アルコールを囲んで殻を作ってる!部分もある!!という感じ。マヨネーズや牛乳なんかに代表される、乳化反応に近そうだ。


そうなると、物理的っていうのもなんとなくイメージが湧いてくるかもしれない。化学反応は基本的に強固な結合を示して、異なる or 同じ分子同士がくっつくイメージなのだけれど、これに関してはそもそもくっついていないことになる。

【熟成によってどう変わるのか?】


更に読み進めると、上記のような反応が、熟成によってどう変化があるのかが記載されていた。


ウイスキーには、コンジェナーという芳香成分が入っている。これは樽由来の成分であり、年月をかけてゆっくりと液体の中で生成されていくそう。これがアルコールを包む水の殻に影響するようだ。

少し難しい説明になってしまうけど、上記の図は

左:新物と貯蔵ウイスキーを、-100度から溶かした様子の比較
右:コンジェナーの濃度を分けて、-100度から溶かした様子の比較

を指す。溶ける温度を観察することで、コンジェナーが水の殻の生成に影響することを示唆している。

記事によると、コンジェナーが水の殻を増やすことでアルコールが安定し、適度でまろやかな味に寄与すると言及がある。確かに殻に包まれずに中身が露出してしまっているものより、何かに包まれて膜ができている方がソフトな味がするような気がする。


また興味深いことに、本論中では水の殻を作る反応は、樽で熟成が終わった後のブレンディング工程の後にも影響するのではないかと触れていて、現場では水の殻を作る反応を安定させるために、少なくとも数カ月は「後熟」という過程を経るそう。原理は解明されていないらしいが、官能評価的にはかなり違うらしい。検査機械ではアルコール:水の割合などが変わらないことも考えると、なんでも科学で説明したがる人間の傲慢さを黙らせるような奥深さを感じる。


【まとめ】

結局、物理反応であるかどうかという部分に関しては、水の殻という表現でとても腹落ちした。というのも、いわゆる乳化反応も、一種の物理反応だからだ。

卵の黄身のような乳化剤と一緒に、油と水を激しく混ぜることで、水で油を包むことができる。そうしてマヨネーズやバターは作られていることは知ってる人も多いだろう。水和についても同じことで、エタノールと水が出会い、水の殻ができているからまろやかになるんだね。

若いウイスキーは、舌に載せるとなんとなくトゲっぽく、味と香りにも深みが感じられないものが多い。ワインに関しても同様に、若いものであればあるほどフレッシュジュースのような酸味や軽さを感じる。樽で熟成させるという、人間が営みの中で自然に会得した方法が、自然とこうした付加価値を生んでいることにとてもワクワクする。しない?(圧

僕自身はお酒を飲むことはほとんどない(アトピーが出る)ので、こうした奥深さを日常的に感じる機会は少ない。味は好きなんだけどね。だけどおそらく、こうした違いは料理酒やペアリングにも大きく影響するであろうことは科学の入口として理解できたし、とても興味深い内容だった。



以上、本書中の、コラム中の、更に熟成というトピックの中の「水和」という反応についてのお話でした。

化学反応と物理反応の境界、難しい。


出展

[1]古賀邦正 , 酒類の熟成についての一考察(3 - 最終回) ーウイスキーの熟成機構を参考にしてー, Sake Utsuwa Research / 12 V, 8-10.

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