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海食崖
海沿いの切り立った崖には、車が一台通れるほどの道がへばりついている。管理所を通ってその道沿いに進む。いつも事務所の窓から眺めているだけだった景色の先を見られる。
波で削られた大きな岩がいくつも転がっていて、海岸は砂浜ではなく砂利浜だ。打ち寄せる波が砂利を洗う音になつかしさを覚える。
道は大きく左にカーブして、下る。窓から見えなかった部分は小さな入り江になっていた。すぐ先に橋が架かっており、その向こうから一台の軽トラックがのろのろとやってくるのが見えた。
ああ、道をあけなくてはな、と連なる大きな岩へひょいと飛び乗って道をあけたが、軽トラックは橋の手前で曲がって行ってしまった。
除け損だなぁ。
ぐるりとあたりを見回し、入り江があったことに満足したので帰ろうと来た道を戻る。
途中、遺棄された古い建物が岩盤の上にあることを思い出し、そちらへ寄り道してみることにした。
太い柱と梁が恐竜の骨のように残っている。軽い気持ちでその梁の上へよじ登って振り返ると、手前に「税 署」と「務」の文字をなくした古い看板の、黒ずんだコンクリートの建物があり、その向こうにいつもこの辺りを眺めていた事務所の窓があった。
よく晴れていて、潮の匂いが心地いい。しかし、吹き付けた風に足元の梁が揺れる。降りなくては。
さて、どこから降りよう。この木片に手をかけ、と指先が触れたら木片はポロリと落ちてしまった。梁はもう、柱の上に乗せられてるだけのただの棒になっている。
バランスを崩して、落ちる――――。
が、落ちる木片の重みに上手に乗って、ふわっと着地できた。衝撃もほとんどない。
はぁやれやれ。帰ろう帰ろう。
そこで目が覚めた。
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