敷居は世界よりも空気を別ける

登山用のリュックサックにお土産の手提げは2つ、埃と雨水で汚れたビニール傘を解きながら改札を抜けた
寒い
地上への階段を気まぐれに一足飛びをし登り切ると湿気った年の瀬を感じる
まだ冬の間を行ったり来たりしているらしい
一層冷たくなった目元から、二重に掛けられた使い捨てマスクの息苦しさにようやく気が付き、息を整えながらしっかり京都に肺をなじませてゆく
誰かの帰りを待っている車の群れの、ヘッドライトの光を追い越し通り抜けて、家へと歩いて行く
バス酔するくらいならと思い、順序よく迷わずにイメージできる時は歩くことにしているのだけれど、車か電動自転車くらいしか通らない坂を3つ程登った先という事もあって、新居はやはり遠い
あれだけ立地は大切だと言っていたのに
全く何も学んでない
ゆらゆら荷物によろめきながら嘆く
重いし疲れたし前からピチピチを着た、真っ暗なのに玉虫色に光るサングラスをかけて降りてくるロードバイカーも来たところだし、わっっ、と叫んでみた
そんだけだった
悔しくもならないけどただムシャクシャしてきて、ぼぅっと光を放つ自販機から翼を授かる
大体何でこんな汚い傘差してとぼとぼ歩いてんだよ
小雨の打つ音に弾みを受けてスピードを上げる
苦しい
気管が締まっていく音
吸引器の前で蛇腹のホースと繋がっていた頃を思い出す
もっと欲しい
内側から肋骨を剥がしたくなる
死ぬ、もっと
喉仏を鷲掴み、引き上げて、なお

脳みその前の方がスカッとして、後ろの方はもう重たくて、生きてる

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