テレワーク導入ガイド(郡上の小規模事業所向け)
2020年3月から4月、コロナ禍で都会の企業のテレワーク導入が話題となりました。一方で対人の観光サービス業、製造業が多く、小規模事業者も多い郡上市では、テレワークの導入はなかなか難しかったと思います。しかし、BCP(事業継続計画)の観点からも、これからの同様の非常事態が起きたとき業務リスクを下げる対策としてテレワーク導入を検討することは有効です。
テレワーク導入のメリット
「うちの会社は規模も小さいし、お金もないし」「これまでこれでやってこれたから、新しいことは必要ない」とテレワーク導入に二の足を踏んでいる経営者がほとんどだと思います。一方で、ぱっと思いつくだけでもこれだけのメリットがあります。
1. リスク分散
2. 危機管理をしていることでの社員安心と信頼向上
3. 長期的な視点でのコストカット
4. 新しい事業の可能性開拓
5. テレワーク型の業務に慣れた都市型の若い人への雇用訴求
6. 郡上らしい働き方の提案
特に、継続的、かつ新しい若い人を採用しながら事業を伸ばしていきたいと考える経営者の方は、これから普通となるテレワークや分散就労を導入、またはその環境を用意できる企業でないと、これからの”新しい働き方”を望む人々を会社に惹きつけることができなくなります。
また取引先にも、柔軟に新しい仕組みを取り入れ、対応していける企業姿勢を示すことができます。その中で、e-コマースなど新しい事業の展開の可能性も生まれることも多いです。
さらに都市部とは違い、地域の互助、消防団の活動など、郡上ならではの特異な環境を考慮しながら、柔軟な働き方を提供することもできます。人不足がますます深刻になる中、子育て世代のパート勤務の労働力確保などへの活路も生まれます。こうした「郡上らしい働き方の提案」は、これから増えるであろう、社員の子どもたちなど郡上出身者の呼び戻し=Uターンにも有効となってきます。
小規模事業者でのテレワーク導入ステップ
ここでは、郡上市の小規模事業所向けにテレワーク導入を考えます。
筆者はテレワークの専門家でも、ネットワーク環境の専門家でもありません。インターネットの黎明期から30年近く、映像制作(コンピューター・グラフィックス)の仕事に携わっており、SEではありませんが、様々な会社や制作現場で、業務のためのオペレーションシステムの構築に携わってきました。特に「事業をどう行うか」という観点で、人のマネジメントサイドからテレワークでのプロジェクト環境構築を多く手掛けてきました。
良いハードやアプリを入れるだけでは業務は機能しません。そこで経営サイドからの視点から、これまでテレワークや遠隔でのプロジェクト運営などをまだ行っていない、小規模事業者向けのテレワーク導入のポイントを考えてみたいと思います。なお、筆者が経営を手掛ける一般社団法人は、次のような事業形態です。
・社員数: 使用人兼用役員 1名、パートタイム 3名
・業務内容: 相談業務、情報発信、事務作業、企画・イベント開催
・事業に関わる社外関係者: スタッフ6名、業務取引5〜10社、マネジメント先26名
・法人運営関連: 役員(理事)5名、会計事務所
しっかりした”テレワーク導入”については、専門のサイトがありますので、そちらが参考になります。内容は情報系や事務系など、大規模かつしっかりとしたテレワークで業務をする企業向けとなっているので、小規模事業者としてはもう少しライトなところから始めるのが良いと思います。筆者は導入後にサイトを見つけ、自分たちのシステムのチェック用に拝見しました。
一般社団法人 日本テレワーク協会「テレワーク導入のポイント」
テレワーク導入のステップ
1. 決断
2. 洗い出し
3. 導入
4. 継続
<ステップ1> 決断
テレワークは「できるか、できないか」ではありません。「やるか、やらないか」です。ここには責任者(事業主)の決断と覚悟が必要です。
「やる」を決めたら、できるところから、とにか着手してみることが最も大事です。
<ステップ2> 洗い出し
社内の業務で、どの部分をテレワーク化できるかを洗い出します。同時に、テレワークができない部分については業務分散や、今回のコロナ禍では感染防止のための職場改善など、事業継続のための対策が必要、ということになります。事業の継続のための、リスク分散の手段の一つがテレワークになります。
社員が少ない、会社でないと仕事ができない・・・などテレワーク導入が困難と思われる事業者がほとんどです。その中でも経理部門などの会社の基幹を担っている社員にテレワークを導入するなど、できる部分はあると思います。
逆にいうと、テレワークは導入できない、職場改善もできない・・・という事業は、今回の感染症や起こりうる天災など、自分たちでコントロールできない事態が起きたときは事業停止のリスクが相当に高い、ということになります。事業継続のためにも、リスクを低減する対策を考えていくことが必要ではないでしょうか。
さらに、リスクがわかっていても業務改善策を講じず働かせていた、となると労災とされてその責を経営者が問われる可能性もあることも考慮する必要があります。
○導入の優先順位
事業継続のためには、非常時に何人の体制で事業を維持できるか考えます。例えば50%の社員で回せるようにするのであれば、2班体制をつくる必要があります。2班あればどちらかが業務ができなくなっても、もう一つのチームで業務を継続する、会社を存続することができます。
しかし、50%以上の社員がいないと事業が回せないようであれば、非常時には事業を縮小する必要があります。あらかじめ業務内容の優先順位をつけ、業務できる社員が減った場合の対策を考えることが大事です。特に総務・経理は会社運営の要です。小さな会社で事務職員が1名しかいないというのは、全機能がストップするリスクを抱えています。
テレワークや分散勤務体制の導入にあたっては、次の優先順位で、対象者と業務の移行を考えます。
テレワーク導入における対象社員の優先順位
1)子育てを担う親(休校など社会的事情に柔軟に対応できる職場体制づくり)
2)代替要員がいない部署、業務
3)業務が共有できる、協働できる部署、担当の分散労働(2交代制など)
なお、経営者が真っ先にテレワークになって、社員にリスクを負わせる・・・という会社になるのは避けたいです。また、経営者が出社しているから社員も出社させる、という会社も、結局は本質的な改善ができていないこととなり、こうした会社にならないようにしたいものです。
<ステップ3> 導入
テレワーク導入にあたっては、まずできるところからやってみることをお勧めします。お勧めの導入順番は次のとおりです。
1)連絡・コミュニケーション(社内会議、朝礼のオンライン化)
2)事務作業・総務系(会計、労務・法務、など)
3)事務作業・業務系(受発注、業務上の書類作成、社内決済、など)
4)その他、業務のテレワーク化(営業、設計、カスタマーサービス)
1)テレワークをどう導入すればわからない、という方も、まずは(1)の「連絡・コミュニケーションツールの導入」から手をつけてみましょう。遠隔でも連絡、コミュニケーションがとれる、という体験から次の1歩につなげます。パソコンがなくても、スマホとインターネット環境があれば十分にできます。
2)次に切り出しやすいのが総務系です。近年はクラウド型の会計ソフトが全盛です。消費税の変更などへの対応など、クラウド型のソフトは、変更の度のバージョンアップなどが必要ありません。会計ソフトを使っている会社は、ぜひクラウド型への移行を検討してみてください。入力すべき帳票を持ち出せれば、在宅でも会計作業が可能になります。また、会計士さんもクラウド型会計ソフトに対応している方もいて、紙を持ち歩かなくてもオンラインでのやりとりが可能です。監査や決算もリモートで可能になってきました。
さらにe-Taxを導入すれば、かなりの割合でリモートでの業務が可能なのが総務・経理分野です。
3)総務・経理分野の他は、業務の中で切り出し可能なものを考えていきます。経営やマネジメントにかかる部分も、テレワーク化が可能なものが多いです。すべてがテレワーク化できなくても、社員と連絡を取り合い、業務を集約することで出勤時間をずらしたり、出社する日をまとめることも可能です。
4)その他、これまでは「できない」と考えていた業務分野でもテレワーク化が可能なものがあるかもしれません。最近ではオンラインでの営業がすすんでいるとのことです。顔を出すことももちろん大事ですが、それ以上に相手の時間を奪わず、効果的に営業活動ができる可能性もオンライン技術の真価で生まれてきました。特に取引先や販路を市外や海外にも広げていきたい、と考える企業は、営業をオンライン化していくことが必須となっていくと考えられます。
最後に対人での対応や現場での作業など、直接人がいないとできないという業務が残りますが、これらの業務似ついては十分なリスク対策が必要で、そのための準備や投資が重要となります。
<ステップ4> 継続
テレワークはシステムを導入すればできるわけではありません。テレワークは仕事環境が違い、生活リズムも変わります。そのため、はじめは業務効率が下がるのは仕方が無いことです。真面目な人ほどテレワークでも就労時間中は全力で全時間仕事をしないといけない、と自分を戒めますが、これがストレスになっていきます。
しかし慣れない環境は、テレワークをする社員も、マネジメント側の経営者も、時間をかけてできるようになっていきます。様々なテレワークのシステムを提供するMicrosoftでは「テレワークには、エクスペリエンス(経験)が必要」といっています。筆者はフリーランスとして、20代に会社を辞めて自宅作業が中心となったときは、仕事のリズムに慣れるのに1ヶ月以上かかりました。
テレワークを導入したら、すぐに成果を求めず、継続していくことが大事です。事業のリスク管理の一貫と経営者が覚悟し、根気よく続けていき、どうすれば効果的にテレワークをできるかを、従業員と一緒に取り組んでいくことが必要です。
また、非常事態が終わり、せっかく慣れたのにテレワークの経験がまたリセットされるのはもったいないです。平時でも継続的にテレワークを続けることが大切です。慣れを積み重ねることでノウハウになり、いざというときに実践的に業務をすることができます。
メンターサポート
テレワークを導入するに当たり、1〜4の必要な要素を書きました。導入すべきノウハウ、システムを導入する方が分かっているときは、ご自身や、コンピュータやネットワークに強い業者さんにお願いすればすぐに導入できます。参考に、文末で筆者の法人で導入している環境を紹介しています。
しかし、システムの前に必要なのが、経営者の意思・・・すなわち会社の考え方を整理し、社員に示すことです。その一部として「テレワーク導入」があります。また、導入した後の社員の業務サポート、メンタルケアなどの新たな仕組みも必要になってきます。これを経営者が一人で考えるのはとても大変です。
そこで、経営者の方の悩みや想いをまずは棚卸しするメンタリングのお手伝いができるのではないか、と考えました。筆者が10年以上携わっている移住相談員という業務も、相談者のお話を伺い、相談者の考えの整理するお手伝いをさせていただいくものです。アドバイスではなく、相談者ご自身が考えを整理し、次の一歩気づき、ご自身が行動を起こせるお手伝いをするのが相談員(メンター)の役割だと考えています。
また、テレワークなどの技術導入にあたっては自分の経験や知識の範囲内ではありますが、セールスマンではなく、初歩的なエバンジェリスト(IT業界の伝道師/アプリなどの魅力を伝える人)的な役割として、システムエンジニアなど専門家に頼む前の課題整理や次のステップを見つけるためのお手伝いができれば幸いです。
私たちがどのようなことができるかは、「郡上市テレワーク企画(2020.4.20 ver)」ご覧ください。コロナ禍で行政でもテレワークや分散登庁が進む中、対策にまだ着手できてなかった郡上市向けの提案書です。採用にはなりませんでしたが、みなさんの考え方の整理の参考にしていただければ幸いです。
「悩んでいるけどどうしよう」「相談したいけど、どこに相談したらわからない」・・・という方向けに、個人的なオンライン相談室をつくりました。ご利用は<お一人様一回限り/40分>、相談は無料です。
<移住&テレワーク初期導入>無料オンライン相談室 予約フォーム
https://timerex.net/s/gujoteijyu_koba/eba4fc40
急いでお問い合わせいただく必要はありません。考えの整理のための記事もつくりました。「緊急時の法人マニュアルのつくり方」「会社のOS」
<テレワーク導入システム参考>
私たちが導入しているシステムは次のとおりです。法人運営開始の2018年4月より、データをすべてGsuite(Googleのクラウド型サーバ)に、社員のパソコンをノートパソコンに切り替えています。今年4月に社員全員をテレワークに移行しましたが、必要なデータはすべてクラウド上にあったので、スムーズに全面移行ができました。
今回のコロナ禍対策で2020年4月にノートPC2台を新規導入しましたが、GsuiteなどGoogleのwebベースのソフトが多かったため、PCの環境移行は1台30分程度でスムーズにできました。これもクラウドサーバーやオンラインソフト活用のメリットです。
「※」は、全面テレワーク化を決めた2020年4月に導入したものです。
■ソフトウエア
○社内
G suite
<連絡・コミュニケーション>
・メール:G-mail
・チャット: ※Googleチャット
・オンライン会議: ※Google Meet
・データサーバー: Google Drive(容量無制限)
(ここまで、G Suiteで使用可能)
・テキスト: Googleドキュメント、Microsoft Word
・表計算: Googlesスプレッドシート、Microsoft Excel
・プレゼンツール: Googleスライド、Microsoft PowerPoint
・情報共有、顧客情報管理; Kintone
<電話・ネットワーク>
・モバイルWiFi: 2台
・クラウドビジネスフォン: ※Good Line
<労務、会計>
・勤怠管理: ※スマレジ・タイムカード
・労務管理: 人事労務freee
・会計ソフト: 会計freee
○社外連携
・チャットツール: Facebookメッセンジャー、Slack
・オンライン会議: zoom
・データサーバー: Google Drive
・情報共有: Facebookグループ
■ハードウエア
・PC: Dell ノートパソコン(社員全員)※4月に2台追加導入
・イヤホンマイク: Apple AirPods Pro ※4月に3台導入