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会社のOS

緊急事態における「法人マニュアル作成」、小規模事業者向けの「テレワークの導入ガイド」について書きました。こうした新しい仕組みを導入するとき、導入した仕組みがうまく機能するためにはもう一つ必要なことがあります。それは、会社の考え方・・・「会社のOS」のアップデートです。

OSとは、コンピュータ社会で使われる「オペレーション・システム」のことです。コンピュータ社会のOSでは、パソコンの「Windows」、スマホでiPhoneを使っている人は「iOS」などが有名です。普段私達が使っているメールやインターネットブラウザ、ワープロや表計算、カメラやLINEなど、様々なアプリケーション(アプリ)は、OSの上で動いています。人がコンピュータやスマホを使う・・・つまりアプリを使うためには、アプリを動かすことができる基盤・・・「OS」がまず不可欠なのです。

新しい便利になったアプリを使うためには、古いOSでは不具合が起きることが多く、定期的にOSのアップデート(バージョンアップ)が必要となります。テレワークなど新しい取り組み(アプリ)を会社に導入するとき、今の会社のOSは対応できるものでしょうか?(2020.6.10一部加筆)

会社の古いOSでは新しい仕組みは動かない

会社における”OS”とは何でしょうか?

「会社のOS」とは会社の考え方、意思決定の基本となる”会社の基盤”だと考えられます。この基盤(OS)の上に、就労規則や、様々な業務オペレーションマニュアルが整備されていくことになります。

会社のOS_図.001


実際の会社の基盤とは?を考えてみるとき、みなさんの会社にはこんな”当たり前”がないでしょうか?

・会議は会議室に集まる。資料は紙で全員分用意する
・書類には上長のハンコが必要
・就業時間は8時から5時と決まっている
・全社員が仕事ができる社屋が必要だ
・事務所には必ず人がいるべきだ
・社長が出勤するときは社員も出勤することになっている
・「ちょっと」といえばすぐに話しができることが重要だ

こうした会社の”当たり前”が、会社の業務を考えていくための基盤となっていることでしょう。小さな会社では創設者や経営者がつくったものが大半だと思いますが、会社の考え方、意思や方向性をつくるものです。

この基盤=「会社のOS」の上に、様々な業務(コンピュータでいう「アプリ」)が走り、その業務のために社員が動いています。したがって、テレワーク、リモートワーク、業務の分散化など、新しい仕組みを導入するとき、「会社のOS」が古いままだと新しいアプリ(新しい働き方や仕組み)はうまく動かないことが多いのです。

常識を疑う

コロナ禍で、都市部を中心に一気にテレワークが進みました。OSを変えず、これまので業務の延長で対応できたところもありますが、一方でこれを機にこれまでの「会社の常識」を疑う経営者も出てきました。

?> 会社に人が集まらないと仕事はできないのか?
?> そもそも社屋はいるのか?

これまで常識とされていた囚われから立ち止まり、会社の根本的な考え方=「会社のOS」を本質的に見直し、これからの経営のあり方を大きく変える会社も出てきました。

「全社員がリモートワーク可能に」
「大きな社屋はいらない」


こうした新しい考えをする企業の足かせになっていたのが「ハンコ文化」の頂点である国です。今回のテレワークの急激な広がりで、国もようやく重い腰を上げました。総務省は、公文書からハンコをなくす「電子署名」の本格導入を前倒しで2020年度中に行うことを発表しました。行政機関の書類提出も順次電子署名に切り替わることが期待されます。「ハンコのために出社しないといけない」という常識がなくなる日も遠くないでしょう。

?> 就業時間は、本当に8時から5時が正しいのか?
?> 社員は全員会社に集まらないといけないのか?

という常識はどうでしょう。在宅勤務をやってみた結果、うまくいかなかった人もいる一方、仕事の効率が上がった人も多くいるとのことです。会社では決められた場所で、決められた勤務時間内で仕事をしないといけないですが、在宅勤務では勤務時間外でも仕事のペースが上がったときに集中して行うことでより効果的に業務をこなせる人がいたのです。

仕事のペースに乗ることを「フロー」といいます。「フロー」に乗ったときは、疲れを知らず集中して一気に仕事をすることができます。筆者も映像制作時代、なかなかペースがあがらなかった後、「フロー」に乗ることで数十時間集中しながらフロー前の数倍のスピードで仕事ができたことが数え切れずあります。

「フロー」が訪れるタイミングやペースは人によって様々です。特に企画や設計などクリエイティブな業務ををする人は、発想する時間と場所が限られる会社勤務以外にも仕事環境がある方がより能力を発揮できる機会が多くなることでしょう。加えて時間と場所に縛られない働き方は、時差がある海外とのやりとりをする人にも有効です。

「仕事はタイムカードで管理するもの」、つまり「働いた時間=報酬」という常識があると、新しい働き方はうまくいきません。

?> 社長が出勤するときは、社員が必ず出社しないといけないのか?
?> 「ちょっと」といえばすぐに話ができることはいいことなのか?

会社に人が集まることで上長の指示や社員のコミュニケーションが迅速にいくという反面、頻繁に声をかけられることでかえって業務効率が下がることもあります。先程の「フロー」を考えるとき、ようやく調子が出てきたときに声をかけられることで、また振り出しに戻る、ということもよくあります。

”声をかける”という行為は、コミュニケーションであるということと同時に、相手の時間を奪う行為であることも、経営者含めて全員が認識しておく必要があります。業務や人によっては、それにより効率が大幅に下がることにもつながります。

その他、新しい働き方、仕組みを阻害している「常識」が会社のOSにないでしょうか?社会のあり方が変わる中、経営者はこれまで考えていた「常識」を疑ってみる必要があります。

未来の働き方

未来の働き方について、様々な予測がありますが、厚生労働省が2016年に発行した『働き方の未来2035』は興味深いです。そこには今から15年後、2035年の働き方として、次のようなことが予測されています。

・時間や空間にしばられない働き方
・企業ではなくプロジェクトに属する
・働く人が働くスタイルを選択する
・働く人は仕事内容に応じて働く時間を自由に選択する
・ICTの進歩がバーチャルなコミュケーションに急速にリアリティをもたせる
・ITの真価でローカルといえども、グローカルにつながれる
・AIの発達が言語の壁を超え、VR技術が空間の壁を超える

「こんな世界は味気ない、嫌だな」「うちは昔ながらでいい」と思われる経営者の方も多いと思います。しかし、残念ながら社会、そして世界はこの方向に動いていきます。

学校では、こうした社会の変化に対応する教育がすでに始まっています。特に生まれたときからスマホがある「デジタルネイティブ」世代は、今の大人以上にICTやAIを普通に使っていきます。つまり、これからの若者は「未来の働き方」を当たり前に目指すため、その環境がある職場や仕事でないと若い人々がその職につかない、ということになります。

ビジネスを大きくしよう、成長させようとする企業は、世界的に新しい職場環境を用意して、新しい人材を確保しようとします。企業に属さないでプロジェクト単位で参加する人もいるでしょうが、それも優秀な人を惹きつけるための仕組みや環境が必要になります。取引先企業やプロジェクトとやりとりをするためにも、自分たちも新しい考え方に対応していく必要があります。

「会社のOS」を考えることは、新しい社員やパートナーなど、将来を展望して優秀な人やチームを自社に引きつけられるか、という会社の未来を考えることでもあります。

これからの新しい働き方に柔軟に対応できるかーーー「会社のOS」にかかっています。

<参考>
働き方の未来2035』(厚生労働省 2016.8)
官公庁が出している文書としては相当に面白い内容です。30ページ弱と短いので、ぜひ見てみてください。特に巻末の「参考資料」としてある
「未来通信~20 年後の私は幸せに働いていますか?」
には、仮想の5名の「2035年のインタビュー」が書かれていて、なかなか興味深いです。

メンターサポート

テレワークの導入ガイド」でも触れましたが、新しい仕組みの導入、そのためには会社の考え方を整理し、社員に示すことが大事です。しかし、新しい仕組みを考え、そのための「会社のOS」をバージョンアップするには、経営者一人では考えをまとめるのはなかなか難しいのではないでしょうか。

そこで、経営者の方の悩みや想いをまずは棚卸しする「メンタリング(相談)」のお手伝いができるのではないか、と考えました。筆者が10年以上携わっている移住相談員という業務も、相談者のお話を伺い、相談者の考えの整理するお手伝いをさせていただくものです。アドバイスではなく、相談者ご自身が考えを整理し、次の一歩気づき、ご自身が行動を起こせるお手伝いをするのが相談員(メンター)の役割だと考えています。

またテレワークなどの技術導入にあたっては自分の経験や知識の範囲内ではありますが、セールスマンではなく、初歩的な「エバンジェリスト(IT業界の伝道師/アプリなどの魅力を伝える人)」のような役割として、専門家に依頼する前の課題整理のお手伝いができるかもしれません。

考え方の整理の手順、方法については、これまでの記事にありますので、まずはこちらをご覧ください。その上でお手伝いできることがあれば、ぜひお声がけください。

<これまでの記事>
緊急時の業務体制構築(2020.5.20)
緊急時の法人マニュアルのつくり方(2020.5.21)
テレワーク導入ガイド(郡上の小規模事業所向け)(2020.6.4)
会社のOS(2020.6.9)


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