見出し画像

東京ステーションギャラリー「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」感想と見どころ

1.概要

東京ステーションギャラリーで開催されている「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」を観てきました。あまり予備知識を持たずに行ったのですが、色々と思考に訴える内容でとても楽しめました。

ジャン=ミッシェル・フォロン(Jean-Michel Folon, 1934-2005)は、20世紀後半のベルギーを代表するアーティストのひとりです。若き日に偶然出会ったマグリットの壁画に感銘を受け、絵画世界に惹きつけられたフォロンは、1955年に移住したパリ近郊でドローイングを描く日々を送ります。フランスではなかなか芽が出ませんでしたが、アメリカの『ザ・ニューヨーカー』『タイム』などの有力誌で注目され、1960年代初頭にはそれらの表紙を飾るようになります。その後、各国で高く評価され、世界中の美術館で個展が開催されるなど目覚ましい活躍をみせました。

色彩豊かで詩情あふれるその作品は一見すると美しく爽やかにさえ感じられますが、そこには環境破壊や人権問題など厳しい現実への告発が隠れていると同時に、孤独や不安の感情が通奏低音のように流れています。

本展は初期のドローイングから水彩画、版画、ポスター、そして晩年の立体作品まで約230点を紹介する、日本で30年ぶりの大回顧展です。デジタル化やパンデミック、戦争など、社会的に大きな曲がり角にある現代、環境や自由への高い意識をもち、抑圧や暴力、差別などに静かな抗議を続けてきたフォロンの芸術を、いま、あらためて見直します。

展覧会公式HPより

2.開催概要と訪問状況

展覧会の開催概要は下記の通りです。

【開催概要】  
  会期:2024年7月13日(土) - 9月23日(月)
 休館日:月曜日(ただし8月12日、9月16日、9月23日は開館)
開場時間:10:00 - 18:00
     ※金曜日は20:00まで開館
     ※入館は閉館30分前まで
 観覧料:一般1,500円 高校・大学生1,300円
     *中学生以下無料
     *障がい者手帳等持参の方は入館料から200円引き
     (介添者1名は無料)

展覧会公式HPより

訪問状況は下記の通りでした。

【日時・滞在時間・混雑状況】
日曜日の14:00頃に訪問しました。それなりに人は多かったですが、混雑しているというほどではありませんでした。結構ボリューミーな展示であっという間に2時間経っていました。

【写真撮影】
写真撮影は不可でした。

【グッズ】
ポストカードやクリアファイル、マスキングテープなどが販売されていました。図録は読み物ページが充実した印象でした。

3.展示内容と感想

展示構成は下記の通りで、「旅」をモチーフにしていました。

プロローグ 旅のはじまり
第1章 あっち・こっち・どっち?
第2章 なにが聴こえる?
第3章 なにを話そう?
エピローグ つぎはどこへ行こう?

展覧会公式HPより

展覧会タイトルとポスターの印象からふんわりした内容を想像していたのですが、色々と刺激的でいい意味で予想を裏切られました。柔らかなグラデーションが印象的な水彩画やクリアな色彩が魅力のシルクスクリーンなど作品自体は美しいのですが、作品に込められたユーモアであったり社会への風刺がより強い印象を残しました。キャプションが最小限で、観る人に想像力を働かせてほしいという展覧会の意図を感じました。

プロローグの「旅の始まり」では初期のドローイング作品が紹介されていました。マイクを飲み込むように歌っている人であったり考えすぎて頭から火を噴いている人であったりと、シンプルでユーモラスな表現が面白かったです(笑)。

撮影スポットより

続く1章の「あっち・こっち・どっち?」はバラバラな「矢印」に攪乱される人間の姿が表現されていました。1970年代から90年代の作品が中心でしたが、情報の洪水に翻弄される現代人にはさらに真に迫る内容だと感じました。一見都市生活に人間が縛られているように見えますが、矢印と化した人間が高層ビルを縛り付けている「都市のジャングル」という作品からは人間と社会が違和感を抱きつつお互いに歯止めが効かなくなっているのではと思わされました。

この章から登場する「リトル・ハットマン」も不思議な存在感がありました。自由気ままなようにも見えますが、私としては孤独と物悲しさをより強く感じました。様々な現実であったり人生の岐路のようなものに無表情のまま対面しているところがそう思わせたのかもしれません。

2章ではより具体的な社会問題を取り扱った作品が展示されていました。環境問題、戦争、格差などを真正面から取り上げており、批判がストレートに伝わってくるところが印象的でした。一方で「深い深い問題」や「死の舞踏(雑誌『アトランティック』[1984年1月]表紙 原画)」など厳しい世界情勢を描きながらも作品としてはどこか可愛らしさが保たれていて、そのあたりのさじ加減がアーティストのアーティストたる所以だと思いました。

3章はフォロンのポスターや書籍の仕事を通じて、自分からどんなメッセージを発するかというテーマが扱われていました。前章までの展示で作品のとっつきやすさと主張の鋭さのバランスの良さが印象に残っていましたが、フォロンのメディアを通してより多くの人に作品を届けるというプロ意識のなせる業だったのかなと思いました。「『世界人権宣言』 のための挿絵原画」は上下に作品を並べてその下にタイトルが左右に分かれて掲載されていたのですが、最初逆から見始めたため「この宣言にこの絵を付けるのか、意外だ…。」などと思ってました…。

エピローグでは鳥や船といったモチーフの作品が中心で、人がより遠い世界へ羽ばたいていくことを後押ししてくれるようでした。特に「ひとり」という作品は世界と向き合い踏み込んでいく勇気と世界はそれを受け入れてくれるということが表現されているようで、力強いメッセージを受け取ったように感じました。

ジャン・ミッシェル・フォロン「ひとり」1987年 フォロン財団
※グッズのポストカードを撮影

フォロンは名刺で「空想旅行案内人」と名乗っていたそうですが、単に夢物語を描くのではなく、現実と向き合ったうえで観る人に思考や想像のきっかけを与えてくれる存在だったんだなと思いました。

4.個人的見どころ

個人的に気に入った作品は下記の通りです(無題が多いので書きづらいのですが…)。

◆ジャン・ミッシェル・フォロン「われ思う。さりとて何を?」制作年不詳 フォロン財団
タイトルと作品の取り合わせが絶妙だと思いました。「人間大したことは考えていない」という滑稽さが最高で、デカルトがこの作品を見たらなんと言うだろうと考えてしまいました(笑)。

◆ジャン・ミッシェル・フォロン「見えない存在」1990年 フォロン財団
美しい作品なのですが、人物が透けて風景に溶け込んでいるところに何か寂しいものを感じました。

◆ジャン・ミッシェル・フォロン「調査」1970年 フォロン財団 
こちらもタイトルとの取り合わせが面白かったです。輪切りにして徹底的に調べるということかと思いました。

◆ジャン・ミッシェル・フォロン「白い花」1998年 フォロン財団
花というより生命を描いた作品のように感じました。発光している物体がその後消えていくことを暗示しているようで、儚いものを感じました。

ジャン・ミッシェル・フォロン「白い花」1998年 フォロン財団
※グッズのポストカードを撮影

◆ジャン・ミッシェル・フォロン「旅」1995年 フォロン財団
絵画というより立体作品なのですが、「旅」という概念を物質化したアイデアがすごいと思いました。

5.まとめ

色々と発見が多い展示で何回か足を運んでみたいと思いました。夏休みのお出かけにおすすめです!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?