泉屋博古館東京「特別展 オタケ・インパクト 越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム」感想と見どころ
1.概要
泉屋博古館東京で開催されている「特別展 オタケ・インパクト 越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム」を観てきました。
2.開催概要と訪問状況
展覧会の開催概要は下記の通りです。
訪問状況は下記の通りでした。
【日時・滞在時間・混雑状況】
日曜日の13:30頃に訪問しました。混雑はなく、ゆったりと鑑賞できました。割とコンパクトな展示で1時間ほどで見終わりました。これくらいだと疲れないです(笑)。
【写真撮影】
エントランスの1点のみ可でした。
【グッズ】
今回の展覧会のオリジナルグッズは少なめな印象でした。他館で開催されている尾竹三兄弟の展覧会の図録も置いてありました。
3.展示内容と感想
展示構成は下記の通りでした。
尾竹三兄弟は以前読んだ高橋明也、冨田章、山下裕二著「初老耽美派 よろめき美術鑑賞術」(毎日新聞出版、2019年)で話題に上がっていて興味を持ちました。抜群の画力を持ちながら死後完全に忘れられてしまったのだとか…。エントランスに展示されていた三人で写った写真からして個性的(主張が強い?)な人たちだったんだろうなと思わせるものがありましたが、作品もとてもユニークで楽しめました。
第1章は三兄弟の画業初期の売薬版画(薬のおまけ)、挿絵などが中心でした。物語の一場面や歌舞伎の見せ場を描いたものが多く、山下裕二氏言うところの商業美術を通してイメージを視覚化していく力をつけていったことが伝わりました。国観の「絵踏」は踏絵の周りを開けた構図がドラマティックで、挿絵で磨いた表現力が結実しているように感じました。講堂では尾竹三兄弟の手掛けた挿絵がスライドショーで上映されていたのですが、西洋の物語も和風に寄せることなく描いていて、こうした原作に忠実な姿勢ががオリジナル作品を描く時のアイデアの蓄積につながったのかなと思いました。
第2章では三兄弟が文展で華々しい受賞歴を飾っていたころの作品が展示されていて、三人の個性の違いを感じたセクションでした。長男・越堂は力強い線と明快な色彩に特徴があり、大画面に映える作風だと思いました。それに対して三男・国観はラクダや馬の毛並みなどとても繊細に描いていて、美麗な作風が私の好みでした。次男・竹坡はデザイン的な描写と緻密に描き込む描写の両方が見られ、作風の幅広さが感じられました(次章で幅広いなどという次元ではないと思い知るのですが…)。
第3章は文展と距離を置き自分で主催した展覧会で発表した作品が展示されていました。足を踏み入れた途端、竹坡の作品群のアバンギャルドさに圧倒されました。前衛的な描写といい何かしら哲学的なモチーフといい「百年前の日本にこんな絵を描いた人がいたのか」と衝撃を受けました。斜めの線が交錯してやたらとスピード感がある「競ひ(決勝点)」、ルソーのような素朴感のある「南国風物(爛春)」、抽象画のような「源平合戦図」(そもそも解説を読まないと絶対源平合戦だとは思わない…)など同じ人が描いたとは思えない作風の変遷の激しさで、竹坡の創作意欲を強く感じました。
最後の第4章では三兄弟それぞれの晩年が紹介されていました。技巧よりも精神性を重視した作品が多かったように思うのですが、それぞれが勢いの任せるのではなく自分のスタンスで絵と向き合っていた様子が伝わってきました。竹坡は端正な墨の線が印象的な「西王母・東方朔」や神秘的な「大地円」などを描いていて、前章とはまた異なる魅力を感じられました。
特集展示では住友家(泉屋博古館東京は旧住友家の別邸跡地に建っている)と尾竹三兄弟の交流の中で生み出された作品が展示されていました。肩の力が抜けた席画や合作からは三兄弟の仲の良さが伝わってきて、和むものがありました。
4.個人的見どころ
個性的な作品が多く、中でも下記の作品が印象に残りました。
◆尾竹国観「人物図」明治30年代(19-20世紀) 泉屋博古館東京
この絵を見たくて後期展示になるまで待ちました(笑)。新郎新婦(?)の奥ゆかしい様子に見ているこちらもハッピーになります。少女漫画のような雰囲気の作品でした。
◆尾竹竹坡「六歌仙」明治43年(1910) 個人蔵
一見伸びやかなのですが、線の濃淡で奥行きを表現しているところや歌人が一対で描かれている構図など案外緻密な作品だと感じました。ところどころに引かれている鋭角な線が画面を引き締めスタイリッシュにしているように思いました。
◆尾竹竹坡「漁樵問答」大正5年(1916) 個人蔵
自然とともに生きる人たちの力強さと、多様なバックグラウンドの人達を抱える社会のややこしさの両方が表現されているようでした。越堂の作品からは誠実な人だったんだろうなと伝わってくるものがあります。
◆尾竹竹坡「風精」大正9年(1920) 東京国立近代美術館
◆尾竹竹坡「火精」大正9年(1920) 東京国立近代美術館
今回一番インパクトを感じた作品です。デザイン化された風や炎、キラキラした色のにじみがアニメやRPGのバトルシーンのようで高揚感がありました。終末的というか最終決戦のような緊迫感もあり(何と闘っているのかは不明ですが)、竹波の破壊衝動のようなものを感じました。
◆尾竹国観「巴」昭和5年(1930) 新潟県立近代美術館・万代島美術館
本籍地が長野県なので巴御前には思い入れがあります(笑)。三白眼気味の眼光の鋭さと繊細な手の描写が印象的で、武人としての勇ましさと女性の美意識という巴御前の魅力がよく表れていると思いました。
◆尾竹竹坡「蜀三顧図」明治45年(1912)頃 泉屋博古館東京
静謐な雪景色が美しく、落ち着いた趣がありました。竹坡は静と動、緻密と大胆、王道と異端など、両極端を自在に行き来していて終始驚かされました。
5.まとめ
タイトルの通り衝撃を受ける作品ばかりでとても楽しめました。会期残りわずかですがおススメです!!私は前期展示も見るべきだったと少々後悔しております…。