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郷さくら美術館「那波多目功一の世界 —花と生命へのまなざし—」感想と見どころ
1.概要
郷さくら美術館で開催されている「那波多目功一の世界 —花と生命へのまなざし—」を観てきました。同時開催の「桜百景 vol.38」展も合わせて、日本画の繊細な表現を楽しめました。
このたび、郷さくら美術館では特別展「那波多目功一の世界 ―花と生命(いのち)へのまなざし―」を開催いたします。那波多目功一は1933年茨城県にて、日本画家・那波多目煌星の長男として誕生しました。1950年17歳の時に再興院展に初入選し、翌年には日展でも初入選を果たすなど、早くから日本画壇に実力が認められました。堅山南風が主催する「翠風会」に参加し、松尾敏男に師事しながら制作を続けました。写生に基づいて表現された自然の風景や花々は高く評価され、1990年には日本美術院同人に推挙されました。また、2000年には日本藝術院賞を受賞し、2002年には日本藝術院会員に就任するなど、現代日本画壇を代表する存在として、現在も精力的に制作を行っています。
本展は、那波多目功一の約75年にわたる画業を振り返る回顧展となります。学生時代に制作された初期の作品群、西洋絵画からの影響を受けて描かれた作品群、そして現在も続く写生に基づいて制作された国内外の風景や四季の花々を描いた作品群まで、多彩な作品をご紹介いたします。時の流れや空気さえも繊細に描写された優美な作品をご堪能ください。
2.開催概要と訪問状況
展覧会の開催概要は下記の通りです。
【開催概要】
会期:2024年12月7日(土)- 2025年2月24日(月)
休館日:月曜日 (但し、2/24は 開館)
開場時間:10:00 - 17:00(最終入館 16:30)
入館料:一般:800円 大学生・高校生:300円 中学生以下:無料
*障がい者手帳・療育手帳をご提示頂いた方のみ、該当料金の半額です
訪問状況は下記の通りでした。
【日時・滞在時間・混雑状況】
日曜日の15時頃入館しました。混雑しているわけではなくゆったりと鑑賞できました。あまり展示数は多くなく、休憩スペースやグッズコーナーも含めて1時間ほどで見終わりました。
【写真撮影】
全点撮影可でした。大型の作品が多くフレームに収めるのに苦労しましたが、お客さん同士譲り合って撮影していました(笑)。
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【グッズ】
ポストカード、クリアファイルなどが販売されていました。
3.展示内容と感想
いつものごとくEテレの「アートシーン」で紹介されていたのを見て興味を持ちました。特に章立てはなかったのですが、制作時期によって展示室が分けられていました。1階A展示室では大画面の迫力ある作品が展示されていました。「昇陽 (ディアナ神殿)」、「月輪」など、神々しさを感じる景色が印象的でした。一方で「さざ波」、「せせらぎ」といったさりげない表現の作品もあり、私としてはこちらの方が好みでした。
1階B展示室は1970年代に西洋絵画の影響を受けて描いた作品が中心でした。ブラック、クリムト、ルオーに影響を受けて写生を排して制作に臨んでいたとのことですが、幾何学的な造形であったり黒やグレーを層にしたような色彩にはスタイリッシュなカッコよさがありました。郷さくら美術館や山種美術館の展示を見ていると、日本画にはレイヤーを重ねたような表現に憧れがあるのかなと思うときがあります。
3階展示室(1階→3階→2階と進む)では再び写生を重視して描いた花の絵が展示されていました。花びらの盛り上がり、薄く透けそうなところまで表現されていて、特に「雨に咲く」の繊細な描写には驚きました。ただリアルなだけではなく、「廃園」や「窓」の牡丹の影を帯びたような描き方には人格や死生観を感じさせるものがあり、さながら花の肖像画のようだと思いました。
2階展示室では他の作家の作品も含めて桜を描いた作品が紹介されていました。「花盛り」(並木英俊、2013年)の編み物のような質感、敢えて桜をメインに描かない「春の宵」(齋藤満栄、2015年)など幅広い表現を楽しめました。一方でどの作品も見ているとノスタルジックな気分になり、このあたりが桜の絵の味かなと思いました。
1階B展示室では那波多目氏のインタビュー映像が流れていたのですが、メッセージの熱さもあることながら、「対象との間の空気をいかに描くかが絵の良し悪しにつながる」という趣旨の言葉が印象に残りました。見えないものを描くというと想像力を働かせることだと思いがちですが、対象と自分の距離感というか、関係性に想いを馳せることも大事なのかなと思いました。
4.個人的見どころ
特に印象に残った作品は以下の通りです。
◆那波多目功一「せせらぎ」1987年 郷さくら美術館
水中の小石の方が色彩豊かに描かれているところが斬新だと思いました。何となく和三盆のようだと思いました。
◆那波多目功一「想ひ」1977年 ひたちなか市
西洋絵画の影響を受けた作品群の中で最も印象に残りました。デザイン的な他の作品に対して物語性を感じさせるものがあり、幻想的な魅力がありました。
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◆那波多目功一「寒牡丹」1985年 ひたちなか市
「雨に咲く」と同様牡丹の花弁の描写の見事さに感嘆しました。背景の縦のラインが景色の寒々しさを強調しているように感じました。
◆那波多目功一「年年歳歳」2000年 ひたちなか市
飴細工のような樹の枝とガラスのような葉の描写が美しい作品でした。イメージをぱっと散らしたような構図も印象的でした。
◆那波多目功一「早春の光」2016年 ひたちなか市
今回の展示で一番好きな作品です。花や鳥の生命力を感じさせる柔らかな色彩がとても美しいと思いました。明け方の空、朝日に照らされた花弁のグラデーションも見事でした。
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◆後藤まどか「みちる」2023年頃 郷さくら美術館
クリアな色彩と装飾的な影の描写がどこか非日常を感じさせる作品でした。こういう景色を見たことがあるような見たいと思いつつ見たことがないような、不思議な気分になりました。
5.まとめ
私が訪れた日は凄まじく寒かったのですが、一足早く春を感じる展示でした(笑)。会期残りわずかですが、興味のある方は是非!