国立西洋美術館「憧憬の地 ブルターニュ ―モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷」感想と見どころ
1.概要
国立西洋美術館で開催されている「憧憬の地 ブルターニュ ―モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷」を観てきました。フランスの地方名をタイトルに冠しているので風光明媚な土地を描いた風景画がメインなのかと思いきや、ブルターニュの伝統や歴史に向き合うことで生まれた深みのある作品が多く、とても見ごたえがありました。以下に内容と感想をまとめてみたいと思います。
2.開催概要と訪問状況
展覧会の開催概要は下記の通りです。
訪問状況は下記の通りでした。
【日時・滞在時間】
日曜11時から入場の日時指定券を購入していたのですんなり入れました。展示が約160点と盛沢山で、2時間たっぷり鑑賞して13時に展示室を後にしました。
【混雑状況】
当日券売り場は結構並んでいました。会場内は結構人が多かったのですが、入り口のゾーンを抜けた後は割とテンポよく鑑賞することができました。会期半ばだったのでこれくらいでしたが、会期末になると混むかもしれないので今が狙い目です。
【感染症対策】
入り口で手指の消毒、検温がありました。
【写真撮影】
最初の展示室は全点撮影可、以降の展示室も何点か撮影可のものがありました。大画面の作品が撮影可になっていたのですが、スマホのカメラで納めるのが難しかったです…。
3.展示内容と感想
展示構成は下記の通りでした。
ブルターニュの自然に惹かれた作家の風景画から始まり、そこからこの地にじっくり腰を落ち着けて制作に取り組んだ作家を取り上げていくという構成でした。この構成には「一過性でない地域の魅力をいかに発見していくか」というテーマが込められているように感じられ、現代にも通じる問題提起がなされていたように思いました。ブルターニュに逗留した作家の代表としてゴーギャンの作品がまとまって展示されていたのですが、この地の人々の生活様式に触れることによって独自の画風を確立していった様子が伝わり、一人の作家が覚醒していく様子を目の当たりにしたようでした。またブルターニュの歴史、伝承に題材をとったポール・セリュジエの神秘的な作品も印象に残りました。
III-3.で紹介されていたパンド・ノワールの作家は今まで馴染みがなかったのですが、大画面に当時の社会問題を描いた重厚な作品やブルターニュの人々の日常をドラマティックに切り取った作品など個性的なものばかりでした。「この機会にこれらの作家を知ってほしい!」という美術館側の熱意を感じました。
最後のセクションでは19世紀末から20世紀初頭にブルターニュを訪れた日本人作家の作品が紹介されていました。農村を柔らかな色彩で描いた作品が多く、ブルターニュは異国で戦う日本人にとってほっと一息つける場所だったのかなという印象を受けました。
今回の展示はほとんどの作品が国内の美術館の収蔵品とのことですが、西洋絵画のジャンルで、さらにブルターニュとテーマを絞ってもこれだけ豊富な作品が集まるということに新鮮な驚きがありました。ヤマザキマザック美術館や岐阜県美術館はそのうち訪れてみたいです。
4.個人的見どころ
特に気に入った作品は下記の通りです。
◆ポール・セリュジエ「急流のそばの幻影、または妖精たちのランデヴー」1897年 岐阜県美術館
◆ポール・セリュジエ「ブルターニュのアンヌ女公への礼賛」1922年 ヤマザキマザック美術館
「急流のそばの幻影、または妖精たちのランデヴー」は今回の展覧会で一番好きな作品です。踊り手(妖精?)と鑑賞者の間を緞帳のように木々が区切り、衣装の描き方も透明感のあるものとモノトーンの民族衣装と対照的なのですが、隔たりよりも奇跡を目の当たりにした瞬間の喜びのようなものを感じました。「ブルターニュのアンヌ女公への礼賛」は中世の写本のようなデザイン性が印象的でした。赤、青とコントラストの強い配色ですが、平面的な塗り方が古風な趣を与えているように思いました。この絵を制作した頃はセリュジエは既にブルターニュを離れていたと思うのですが、この地の風土や歴史に憧れを持ち続けていたのかなと思いました(展示は5/7までなので実物を見たい方はお急ぎを)。
◆アンリ・リヴィエール「連作「時の仙境」より:《満月》」1901年 新潟県立近代美術館・万代島美術館
満月の光に柔らかく照らされた光景が郷愁を誘います。星空もいいのですが、明るい夜空に浮かぶ雲もキレイなんだよな~と感じた経験を思い出しました。アンリ・リヴィエールは浮世絵の影響を受けながらブルターニュの光景を版画にしていたそうですが、「和訳されたブルターニュ」というセクションのタイトルのつけ方も秀逸だと思いました。
◆モーリス・ドニ「ハリエニシダ」1917年以前 国立西洋美術館( 松方コレクション)
絵キルトのような可愛らしい作品でした。斑点を連ねていくような描き方にナビ派時代の作風の名残を感じました。
◆リュシアン・シモン「庭の集い」1919年 国立西洋美術館( 松方コレクション)
「急流のそばの幻影、または妖精たちのランデヴー」と並んで今回の展覧会で最も気に入った作品です。画面の対角線左下に舞台と鑑賞者が固まっているのですが、登場人物達の親密さが伝わる構図だと思いました。クリアな色彩も魅力的でした。
◆斎藤豊作「初冬の朝」1914(大正3)年 埼玉県立近代美術館
この作品は以前埼玉県立近代美術館のコレクション展で観た時も魅力を感じた一点です。その際は点描という括りで紹介されていましたが、今回は斎藤豊作の眼にはブルターニュの風景はこんなに鮮やかに写っていたんだなと別の感慨が得られました。
5.まとめ
展示構成、作品とも大満足の内容でした。会期まだありますので、気になってる方は行ってみることをお勧めします!