岡本信広

経済学者。中国の人口,都市経済に興味あり。

岡本信広

経済学者。中国の人口,都市経済に興味あり。

最近の記事

中国の人口ボーナスーNTAから

はじめにメイソンら(Mason et.al. 2022)はこれまでのデータ分析から以下を主張する。 世界経済の成長鈍化: 世界のGDP成長率は、人口増加率よりも大幅に低下し、年間約1%ポイント減速する可能性がある。 サブサハラアフリカへのGDPシフト: 人口動向が示唆する以上に、GDPはサブサハラアフリカ地域にシフトする。 現役世代の生活水準圧迫: 子供と高齢者への高額な支出により、現役世代の生活水準が圧迫される可能性がある。 低所得国における生活水準向上: 人口年齢

    • 中国:定年延長の労働力人口へのインパクト

      はじめに2024年9月13日、第14期全国人民代表大会常務委員会第11回会議において、「国務院による段階的な定年延長の実施方法」(以下、実施方法)が採択された。これにより中国の定年は延長されることとなった。 本稿では、定年が延長されることによって、労働力人口減少がどれだけ抑えられるのか、数量を推計する。 定年延長の中身1950年代初頭に決められた中国の定年は以下のとおりである。 男性 60歳 女性 55歳 女性(ブルーワーカー) 50歳 である。 実施方法によれば以下の

      • 人口ボーナス論(6)ーライフサイクル仮説とNational Transfer Accounts

        はじめに資本蓄積には貯蓄が必要である。人口との関連でいえば,人口構成が貯蓄に影響を与えることが考えられる。 ここでは,ライフサイクル仮説を示し,それを利用したデータベース,National Transfer Accountsから中国の人口における経済への影響を初歩的にみてみたい。 ライフサイクル仮説所得はある程度予測可能な形で変化する(マンキュー2005,pp.588-589)。若い労働者は少ない所得しか得られないが,経験が豊富な労働者になるにつれて増加し,50歳ごろにピ

        • 人口ボーナス論(5)ー資本蓄積はいつまで続くのか?

          はじめに中国経済の重要な原動力は,人々の貯蓄とそれによる資本蓄積である。中国の経済成長を支えるこの資本蓄積がいつまで続くのかを明らかにしたい。 その際に,経済成長論で有名なソローモデルを利用して,資本蓄積の情況を考える。というのもソローモデルは定常状態という概念を提示しており,資本の限界生産性を考えると,いずれ経済は低成長に向かうので,その定常状態と中国の現実の経済との差を考えてみる。 ソローモデル経済成長論でもっとも参照されるものにソローモデルがある。なお,記号の意味は

        中国の人口ボーナスーNTAから

          人口ボーナス論(4)ー中国の資本蓄積を支える貯蓄は増えているのか?

          はじめに中国では労働増大的な技術進歩が続いていることが示された。労働力人口が減少する中、これは良いニュースである。 また一方で中国の経済成長は資本ストックの増加でもたらされている。マクロ的生産関数を見ても、効率労働1単位あたりの資本ストックの増加は順調に効率労働1単位あたりの生産を上昇させている。 資本ストックの拡大,すなわち資本蓄積を支える貯蓄をみて,人口との関係を考えてみよう。 貯蓄と投資経済で生産が行われると所得が生み出される。その所得は消費と貯蓄に向けられる。す

          人口ボーナス論(4)ー中国の資本蓄積を支える貯蓄は増えているのか?

          人口ボーナス論(3)ー技術進歩は労働力人口を補っているのか

          はじめに第1の人口ボーナスが小さく,労働力が減少している現在,なぜ中国は持続的に経済成長を続けていけるのだろうか。1つは前回でもみた資本蓄積であり,もう1つは技術進歩である。しかし,資本蓄積も限界生産性が低下しているので,量的拡大をしても成長を維持するのはなかなか難しい。 そこで重要になるのが,労働生産性を維持する技術進歩である。 中国では労働力不足は深刻になりつつあり、政府予測では2025年までに数千万の仕事が埋まらないとみている。70%の事業で労働力不足があるとみられ

          人口ボーナス論(3)ー技術進歩は労働力人口を補っているのか

          人口ボーナス論(2)ー中国の経済成長の源泉

          はじめに中国の労働力人口が減少しているにも関わらず,中国の経済成長は続いている。「中国に人口ボーナスはあったのか?」で述べたように,人口構造の変化が中国の経済成長を小さいながらも押し上げたことは確かである。しかし2010年代から第1の人口ボーナスはなくなっており,今後の高い経済成長は期待するのが難しい。 一方で,第2の人口ボーナスの存在がこれまでの研究で指摘されている。労働力人口が減少し,その後高齢者が増加することが見込まれると,人々は貯蓄を増やし,その貯蓄が投資を増加させ

          人口ボーナス論(2)ー中国の経済成長の源泉

          人口ボーナス論(1)ー中国に人口ボーナスはあったのか?

          はじめに人口ボーナスという議論がある。人口に占める生産年齢人口(労働者として働ける人口)の割合が上昇すれば,労働力増加によって生産が増加し,貯蓄や投資の増加をもたらして経済発展を促すという考え方である。 人口ボーナスが注目されたのはBloom and Williamson(1998)の研究で,彼らは「アジアの軌跡」と呼ばれるアジアの経済成長のうち,生産年齢人口増加による部分が1/3から半分になると試算した。 中国を対象にした中国の人口ボーナスの推計もあるわけだが,基本的に大き

          人口ボーナス論(1)ー中国に人口ボーナスはあったのか?

          どのような産業が地域・都市を発展させるのか?

          はじめに 地域や都市の発展には,産業が必要である。産業は所得と雇用を生み出す源泉であり,政府にとっては重要な納税者でもある。そのため各地域・都市は産業誘致に力を入れたり,起業支援を行ったりする。 そもそもどのような産業が地域・都市を発展させることができるのだろうか。 経済基盤モデル地域経済学の教科書でよく紹介されているのが,経済基盤モデル(Economic Base Model)だ。非常にシンプルであるため,その分実証分析では問題点が指摘されるが,考え方としては示唆に富む

          どのような産業が地域・都市を発展させるのか?

          東アジア発展モデル(雁行形態論)は終わったのか?

          はじめにこれまで,開発経済学では,ぺティ=クラークの法則があり,経済は第一次産業から第二次産業へ,第二次産業から第三次産業へと変換していくとされた。実際に各国の産業構造はこのように変換してきた。 ここから導かれる含意は,経済発展初期にはまずは第2次産業,なかんずく製造業が必要ということだ。 筆者はアジア経済論も教えているが,通説では,アジアの経済発展を支えたのは製造業であり,先進国から労働集約型産業が途上国に移転し,その後資本集約型産業が途上国に移転し,途上国の製造業発展

          東アジア発展モデル(雁行形態論)は終わったのか?

          イギリス赴任

          2016年4月からのロンドン大学SOASに赴任するにあたり,どのような準備が必要だったか,ビザの取得、子供の学校選択を中心に記録を残しておきたいと思います。(2015年4月から2016年3月までの記録が中心。子供の学校では赴任後の2016年4月も含む) 目次 ■受け入れ機関の決定 ■VISAの申請 ■住まいの決定 ■受け入れ機関の決定 行き先を決めるにあたって考慮したのは、専門分野はもちろんのこと、家族の生活がしやすいところでした。 前職ですでに中国に滞在したこ

          イギリス赴任