story 解放
尾島先輩の財布から出てきた名刺の人物のおかげで解放された俺達は肩を取り合って事務所を後にした。 すぐに尾島先輩の携帯に着信が来る。 俺は次はなにかとドキドキしてる。。 「もしもし、尾島です。 はい、はい、ご迷惑をお掛けしました。はい。わかりました」電話が切れた。 「龍二、俺が世話になってる先輩がお前に会いたいって。お礼もしたいから事務所来いってさ」 俺は念の為、「どんな人ですか?」と確認すると「その筋の人だよ」と言われた。 予感的中。 「とりあえず一本吸おう」そう言って2人で缶コーヒーを片手に新宿の夜空を眺めながら一服。うまい。けどまだまだホッと一息って感じではないけど。少し歩いて5分くらいの所。新宿駅から少し外れた大通り沿いに事務所はあった。また緊張が襲ってくる。屋外の階段を登り事務所の扉の前まで辿り着いた。扉には代紋が記されている。コンコン。尾島先輩がノックしてドアを開けた。 「失礼します」俺も尾島先輩に続いて「失礼します」と入っていく。奥のソファにはグレーのスーツを身に纏った60歳手前くらいの人がいる。恐らくこの人が親分でその周りには20代〜40代くらいの人たちが立っていた。「おう。来たか。随分と派手にやられとんな〜。ハッハッハッ」と親分らしき人に言われる。 「まぁ、2人ともこっちに座りなさい」と言われテーブルを挟んだ向かいのソファに腰掛けた。 「君が尾島くんやな。隣の坊主は舎弟かい?今時珍しいやっちゃな〜。2人ともええ根性しとるわ」なんてニコニコしながら話しかけてくる。イメージしているヤクザとは程遠い人物だった。貫禄はあるが物腰が柔らかく安心感を与えられた。 すると親分の脇に立ってる人が「尾島、今回はよくやってくれたな。お前らみたいにキッチリ仕事してくれる奴はなかなかいないからウチは助かってるよ」と言ってる。 「小平さん、とんでもないです。足が付かないようにと考えていたんですが、甘かったみたいです。ご迷惑をお掛けしました」と尾島先輩が返す。 また別の40代くらいの人が「お前たち、これからどうするんだ?フラフラしてるんならうちで働くか?」と言われたが尾島先輩は黙ってる。 俺は「ヤクザになる気はありません」とハッキリ断った。 それに対して親分は「田崎、何を言うとるんや。失礼やろが。あんちゃん、真っ当に生きや」とまたニコニコして言ってくる。出前でラーメンを取ってくれたみたいで俺と尾島先輩はラーメンをご馳走になった。笑 「またなんかあったらいつでも言ったらええ。ゆっくりタバコでも吸ってきや。」と親分はソファを立ち上がり部屋に入っていった。事務所でタバコを吸ってこの日は帰ることになった。 「尾島、もう遅いから送ってくぞ。」と小平さんという人が言ってる。地元まで乗せていってくれるみたいだ。 早朝4時30分。事務所を後にして階段下で車を待つ。「お待たせ。乗れよ」と言われ2人で車に乗り込んだ。ド定番の黒ベンツのSクラス。ピカピカに手入れされていた。 尾島先輩は助手席に乗り俺は後部座席に乗った。地元に送ってもらってる途中、今回の一部始終の話を聞かせてもらった。
俺と尾島先輩が拉致された組織は小平さんがいる組織の同系列らしくそこの売上を奪ってしまった形になっていたみたいだ。下部組織が勝手に商売してるのを小平さんが知って尾島先輩に奪えという指示があったみたいだ。どうりで名刺を見た途端すぐに解放された訳だよな。 相手方の組織とは話し合いで解決するみたいだが、俺は何も知らずにとんでもないことをしてしまったみたいだ。詳しく話を聞くと尾島先輩は小平さんの組織に属してる訳ではないがアルバイト的な感じで仕事を手伝っているという内容だった。羽振りが良さそうなのもきっと悪い仕事に手を出していたからなんだな。全てを理解した。それでも最後まで後輩の俺を庇い続けてくれた先輩に対して俺は強く言う事が出来なかった。家を知られるのは嫌だったから尾島先輩の家に一緒に降ろしてもらうことにした。帰り際、「これ、親父からだ」とまた10万円と小平さんの名刺を渡された。命懸けの10万円。「要は殴られ代って事か?ふざけんなよ」と思った。 尾島先輩の家に着く頃には朝6時になっていた。もう今日は仕事行けないな。また2人で朝日を眺めながらタバコを吸ってシーマで送ってもらう事にした。 「龍二、俺ヤクザやるかもしんない」車の中で尾島先輩に告げられた。俺はその言葉に何も言えなかった。小平さんという人は25歳で尾島先輩が新宿で友達と酒を飲んでる時に声を掛けてきて知り合ったみたいだ。俺は小平さんに対して出会った事ない様な独特な雰囲気を身に纏った人だなと感じた。家に到着し「お疲れ様でした」と尾島先輩に挨拶をしてその日は解散になった。 家に帰りシャワーを浴びると顔の傷が染みてかなり痛い。パイプ椅子で殴られた時にデコの辺りが切れたみたいでまた血が滲んできた。タバコの火を押し当てられた手の甲はミミズ腫れになってるし酷いやられ様。シャワーを浴びてすぐに部屋に行きベッドに入った。眠ろうとすると昨夜の事がフラッシュバックしてなかなか寝付けない。本当に恐怖だった。同世代の先輩にヤキを入れられるよりも遥かにハードだったな。けど案外人ってそう簡単には死なないんだななんて考えてた。笑
そんな事を考えながら気がつくと眠りについていた。