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【笑ってよオンネ⑥】BC設営

BC設営-12:30
 340m地点の小沢の源頭地に到着した。
ゆっくりと到着したS氏は、みなの期待通りに「まだ歩き足りないナ」とつぶやいた。

まずはスキーを外し、設営地の雪面を登山靴を履いたままで踏みつける作業を行う。
みなでスクラムを組み、わっせわっせと踏みつけていき、しばし時間をおくと平坦な設営地ができあがる。
それから、雪から水をつくるための「雪塊」を適当な大きさにして、ビニール袋へと入れる。
テントは、4~5人用、2~3人用のエスパースゴアテックステントを2張、設営した。
 冬山で水をつくらないことはガソリン消費量や時間的にもとても楽ちんなため、K氏がスコップを片手に小沢へ降りてせっせと掘り出してみるものの期待はずれだったようだ。
 いつかの斜里岳北尾根以来だという、みなで記念写真なんぞを撮影することにした。

記念撮影

テントに入るゾー!
と、テントに入る際には、これから入る者がテント中にいる者へと声を掛ける。
それでないと狭いテントの中では順序よく居住できなくなる。
(テントの中の世界にも「上座」というものがある)

テントに入る際には、二重の冬用プラスティックブーツを外し、インナーブーツのみになり、そしてタワシで足裏についている雪をゴシゴシと落としてから、入り口をくぐるようにして、ゆっくりとテントに入る。
テントの中に少しでも雪を侵入させると、融けてベチョベチョになるからだ・・・

脱いだ外靴はビニル袋へと入れておく。
吹雪きでスキーやストック、ピッケルなどが倒れ埋もれないよう、燃料であるガソリンの置き位置など再度周囲の確認をする。

ビールで乾杯!-13:37
ギンギンに冷え切った琥珀色の液体は、水分を欲している体と喉にグッとくる。
ビールは全部で500ml3本、350ml2本と、少しさみしいが、みなのザックから、日本酒、焼酎、ウイスキーと次から次とでてくると、みな幸せな気分になる。
これからの時間は長いのである…
しかし、これだけあっても足りない事態が3時間後訪れる…
豚の角煮、ちくわ、ホタテの薫製、昆布巻きなど「つまみ」もたくさんでてくる。
恒例の伊達巻き、いただいた天ぷら、シカの刺身を忘れてきたと、会長とK氏が悔しがっている。

歓談は、今は山を離れている会員たちのことや亡くなった会員、過去やこれからの山行談など無限に続いていく。
これが我が山岳会の好きなところでもある。

水をつくる
テントの外に置いて用意してあるビニール袋に入った雪塊を、ひとつずつコッフェル(鍋)の中へ入れて、呼び水を注ぎ、ストーブで加熱し、じっくりと水をつくっていく。

米を炊く
研ぎ済みの米3.5合を別のコッフェルへと入れて、水を注ぎ、炊き始める。
今夜は、五目飯!
炊きあがる前に、ガソリンストーブから、火力の弱いガスストーブへ乗せかえ、そして最後は新聞紙にくるんで逆さまにし、しばし蒸らす。

天気図をひく
16:00からNHK第2放送で始まる気象通報を聴き、天気図をひく。
しかし、電波の入りが悪く難儀する。
それ以上に盛り上がっている酒宴の声と、お互いにシッーと言っては元の喧噪に戻る中、完成させる。
次の低気圧が秋田沖の日本海にあり、北海道東方へ抜けそうである。
ちょっと天気の経過が気になる。冬型の気圧配置になりそうだ。
いずれにしても、正月の知床の山で1日でも快晴に恵まれるということは奇跡に近い。
今日一日、一度オンネが望められたことはホントウにそれだけで満足でもあった。

酒宴とキス
リーダーとぼくは食事後早々と2~3人用テントへ移動した。
隣のテントでは、山への熱き想いと、酒が足りないと騒ぐ怒声を、静寂な知床の冬の森に響かせている。
アマチュア無線で誰かと交信したいと要望あるも、こちらでチャンネル確認やメインチャンネルで応答を呼びかけるも誰もキャッチしてくれない…

しまいには、明後日まで行動するリーダーとぼくのために持ってきたバーボンまで取り上げられてしまう。
代わりに小さなウィスキーを隣のテントからもらった。
唄まで飛び出してきた。合唱している。
良い声だなあ、と思ったが、今にも二次会にでも行きそうな雰囲気である。
ここは山の中なのである…

 「うわっ、やめろ!」という声がでた。
なんでも、酔っぱらって誰かさんが会長にキスをしたらしい…
 18:30、酒宴はお酒がなくなったことで終了、就寝と相成ってゆく。
風もなく、月夜に照らされた夜は更けていった。
 ぼくは、寝袋の中で横になりながら、みなのイビキの大合唱の中、こんなことを考えていた。

「ジンジンと寒いテント生地一枚の中、雪上に寝ている自分の体(命・時間)の不思議さ・・・」
「会長の想い、諸先輩たちのお人柄や個性、ここまで会が続いてきたことの重さとは何なのだろう」、と。
そして、未だ最年少のぼくは「今の自分は一体何ができるのだろう…」と。


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