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【笑ってよオンネ⑨】下山

その後ぼくたち2人は、BCへと慎重に下山を開始した。

(リーダー撮影)

ぼくは意を決して不調なシールを外し、滑走面を出して滑り降り、トラバ-スや小沢ではスキーを脱いで雪をこぎ難儀をしながらも、だましだまし、来た道を、ただただひたすらBCをめざして降りていった。


 ときどき振り返ると、オンネはまだ快晴の中、午後の斜陽を浴びながら穏やかに笑っていた。

BC到着、13:30。
テントは、2~3人用のテント一張りだけがボツネンと午後の斜陽の陰になった中に佇んで主を待っていた。

 ぼくたち2人は、テント内に入り、お湯を沸かしながら、しばらく放心していた。
出来上がったお湯でリーダーはコーヒーを作り、ウィスキーをチョロっと入れた。
ぼくたちのために下山組が残していってくれた小さなウィスキーが、まさか水で薄まっていようとは思いもよらずに…(気のせいですよね?違いますよね?)

 そしてぼくたち2人は満天の素晴らしい星空の下、前日よりもかなり冷え込む中で一夜を過ごした。
脇腹から両手で包まれるような冷魔が、呼吸をするたびにシュラフにもぐるぼくたちを襲う一夜だった。
一度だけ、遠くから風の集団がやってきて2人のテントを叩いていった。

光と風は美しい雪面をつくる芸術家である。

次話↓


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