講師への道 第3章 1対多数のファシリテーションスキル①ディスカッションの活性化
”討議は踊る、されば深まる?”
ディスカッションは学びを深めるための重要なアプローチ方法です。グループ討議であれクラス討議であれ「概念を言語化すること」は、学びを自分事化するための第一歩となるからです。
ただし、ディスカッションを活きたものにするのは容易ではありません。理由は、コントロールしがたい様々な要素が絡み合うからです。例えば、その日の天候・気候、物理的な会場から受ける影響(暗い/狭いなど)に始まり、果てはその組織の文化(学びに対する姿勢、快活さなど)から受ける影響も少なくありません。
ディスカッションを活性化させるために、クラス討議のファシリテーターとして、あるいはグループ討議の監視役としての講師が取り得るアプローチやスキルは何か?列挙するなら、以下4点となります。
プログラム内での討議セッションの位置づけ
討議テーマと時間の設定
役割と討議フォーマットの付与
議論の見える化
では、順に解説していきます。
1.プログラム内での討議セッションの位置づけ
詳しくは第4章 インストラクショナル・デザイン(ID)でも述べますが、討議をプログラム全体の中で「どのような意図をもって位置付けるか」ということです。討議を行うなら当然に、何かしらの目的・意図、求めるゴール、討議アウトプットのイメージがあるはずです。それが討議セッションの前後セッションとどのように結びついているかということです。
「今、このタイミングでの討議の必然性」が受講者に理解されないと、”???”となります。そうすると当然に、討議は活性化しませんし、期待するアウトプットも出てきません。
簡単な例を挙げます。管理職向けのコミュニケーション研修があるとします。プログラムとして、①自己紹介のアイスブレイク → ②ペアロールプレイ「部下育成のためのコーチング練習」が設計されていたとします。互いを知り、発言のウォーミングアップも終わった状態で、次がペアのロールプレイといのは、展開としては悪くないですね。
ですが、そもそも「我々にはコーチングに課題がある」という合意形成がなされていないと、練習に身が入らない可能性があります。だからロールプレイに移る前に、グループもしくはクラス全体で「部下育成におけるコミュニケーション課題」をテーマに討議する必要性が出てくるのです。期待する討議アウトプットは「我々にはコーチングに課題がある」です。
2. 討議テーマと時間の設定
テーマ設定や問いの表現の仕方によって、思考が刺激されたり、深まったりということはあり得ます。討議テーマを「部下をコーチングする際の課題は?」と設定するのと、「1on1でもどかしさを覚えた具体的体験とその理由は?ただし理由は、自身(上司側)の内面に求めよ」では、後者の方が討議の取っ掛かりが得やすいです。
ねらい通りの討議結果を導くならば、議論が発散・脱線しすぎないように、テーマをある程度絞り込む必要があります。一方で、絞り込み過ぎると、討議結果の広がりが期待できず、予定調和の、白けた議論となります。
それらを避けるためには、討議テーマを分解し、難易度、思考の深まり度を段階的にコントロールすることが有効です。例えば、①部下育成のコミュニケーション課題は? → ②なかんずく、コーチングを仕掛ける側の落とし穴は?→ ③我々が部下から引き出したい”主体性”の正体とは?というイメージです。
討議時間については一般論として、3人以上での討議なら最低でも10分、最長なら1時間程度が集中力の限度でしょう。
なお、討議人数は多様な意見を統合するなら多い方がいいのですが、5人以上だとフリーライダーが発生する可能性が高まってきます。成熟した受講者なら3人でも成立しますが、4~5人がベストかと思います。
3. 役割と討議フォーマットの付与
人は役割を付与されるとその責任を果たそうとするものです。討議においてもその心理を活用します。講師の目が行き届きにくい、グループ討議においては討議に入る前に、司会、書記、タイムキーパーなどの役割を付与または設定してもらいましょう。
司会をファシリテーターとして、書記やタイムマネジメントを兼務させることもできますが、受講者に参画意識を植え付けるためには、小さな役割をできるだけ多くの受講者に分散させることをおすすめします。
討議アウトプットのばらつきを抑えるために、討議フォーマットを活用するのも効果的です。ホワイトボードや模造紙、オンラインならばPPTスライドを”田”の字に分割して、左上に①問題事象の具体的描写、右上に②その原因の深堀り、左下に③真因を踏まえた課題の設定、そして右下に④課題克服のための具体的アクションを書いてもらう、というイメージです。
4. 議論の見える化
討議結果はリアルタイムで見える化してもらいましょう。記録を取ることで議論が迷走したり堂々巡りしたり、論点を見失ったり、重複したりすることが減ります。また「文字面」を眺めることで新しいアイデアが喚起されたりします。
スキル的に難しいのは「リアルタイムで」という点でしょう。一言一句書き起こす必要はありません。重要なキーワード、数字、固有名詞を書き取るだけで十分です。書いたり消したりが面倒ならば、付箋を併用するものいいでしょう。
文字表現を省略するのも手です。重要な点を〇で囲む、ペンの色を変える、下線と波線を使い分ける、矢印で因果関係や時間軸を整理する、優先順位を番号で表現するなど。評価軸を設定してマトリクスに落とし込む、ピラミッドを描いて階層化する、循環図に落とし込むなどのチャート化までできれば、見える化の上級者です。
講師自らが議論を見える化するなら力量を示すチャンスです。かなり高度ですが、グラフィック・レコーディングという技術を身に着けるのもよいかもしれません。