講師への道 第2章 1対1の対人コミュニケーションスキル①傾聴・共感
人は基本、話したがり
一般論として、他人の話を聞き続けるのは苦痛です。話し手への興味関心がよほど高い、あるいは話し手の話す内容がよほど面白いなら話は別ですが。
一方、話し手は、なぜ話すのか?聞き手がいるからですよね。相手が熱心な聞き手であればあるほど、話し手は気持ちよく話せます。
受講者を研修に巻き込み、自分事化させ、満足度も高めるために、講師は上記特性を利用します。つまり、受講者とのインタラクティブな対話場面をプログラムの要所に盛り込み、傾聴の姿勢で受講者の話を「聴く」ことで、受講満足度を高めることができます。
クラス内で経験学習モデルを回す
学習の観点から言っても、発言を通じて自身の考えを整理させ、言語化・概念化させることで、実務に活かせる教訓が得られます。あるいは、無意識で行っていた好ましい言動(暗黙知)が形式知化されることで、その再現性を高めることができます。
つまり「経験学習モデル」をクラス内で回すということですね。もっとも、経験学習モデルを確実に回すためには、コーチングやファシリテーションのスキルを併用する必要があるのですが、本稿ではその前段としての「傾聴の姿勢」について詳述します。
「傾聴の姿勢」が身についている人は1割程度?
傾聴の姿勢を言葉にすると、以下のような姿勢、態度となります。
やわらかい表情、適度なアイコンタクト
うなずき、相槌
復唱・反復、要約・確認
適切な身振り手振り
共感のリアクション、適度な感情の発露
相手に合わせる(ペーシングやミラーリング)
メモを取る
とてもベーシックなコミュニケーションスキルです。ベーシック過ぎるとも言えます。なので皆様、「そんなことなら既にできているし、実際日々実践している」とおっしゃいます。
ですが、真の意味での「傾聴の姿勢」が身についている人は、全体の1割程度というのが、職業柄様々な企業を垣間見てきた私の感覚値です。
真の意味での「傾聴の姿勢」とは
ところで私は「序章 ①はじまり」で自己紹介した通り、前職では自動車ディーラーの再生コンサルタントをやっておりました。倒産寸前の自動車ディーラーにも、キラリと光る「営業ハイパフォーマー」は必ず居ました。
彼ら、彼女らに共通していたのは何か?それが「傾聴の姿勢」でした。正直に言うと、傾聴の姿勢だけで、200万円から時に500~600万円を超える高額商品を年間で80台以上販売していたといっても過言ではありません。
ではなぜ、傾聴の姿勢だけでそのようなことが実現できるのでしょうか?
傾聴の姿勢が”常態化”している人と接し続けていると、小さな親近感が芽生え、気が付けば圧倒的な信頼感にまで育つのだろうと思います。そうでなければ、発売前でカタログしかない、試乗はおろか実車の色味も確認できない状態で、「じゃあ、これ買うわ。どこで買っても車なんか変わらんのやから、あんたから買うわ。今買ったら、あんたの今月の成績になるんやろ?」と、即決する顧客の心理が説明できないからです。
もっとも、研修の場で講師に求められる傾聴の姿勢は、ここまでのレベル感ではありません。個々の受講者と1対1で対話できる時間も短いですし。
ただ、「そんなベーシックなスキルは既に身につけている」と軽々に断言する姿勢を戒める(自戒を込めて)ために、このエピソードを紹介しています。真の意味での傾聴の姿勢は、「傾聴の”思想”」と呼ぶべきものかもしれません。
研修の場で講師が体現する「傾聴の姿勢」
さて、講師が研修の場において傾聴の姿勢を取る直接的な目的は、受講者に多く話させることです。うまくいけば親近感を与え、信頼感を高め、クラス全体の「心理的安全性」を強化することにつながります。なお、心理的安全性については、第1章 ②講師自己紹介をご参照。
受講者に多く話させるためには、以下のような対話のループを回すことをおすすめします。
発言のプレッシャー、ハードルを下げる「感想でもいいんですよ」
発言の範囲をある程度絞る「例えば、○○という観点ではいかが?」
ポジティブな”合いの手”を入れる「いいですねー!お続けください」
受講者の発言後、発言が短ければそのまま反復、長ければ要約・確認する
発言の内容に応じた「共感」を言葉で表現する
必要に応じて、受講者の発言の中から発展性のあるキーワードを拾って深堀り質問する「先ほどおっしゃった○○について(具体的に”What”/その背景を”Why”/どのようにして”How”)お教えください」
必要に応じて、3に戻る。クラス全体で共有すべき意義あるコメントが引き出せたら、受講者全体に拍手を促し、対話を終える
いかがでしょうか。上記ループに基づく対話(=傾聴の姿勢の体現)ができれば、話し手としては「かなり自分のことを理解してくれた」と実感できるはずです。それが、満足感、気づきの誘発や言語化、学びの実感、研修への参画意識、心理的安全性の確認につながります。