講師への道 第4章 インストラクショナル・デザイン(ID)⑤学習KPIの設計とモニタリング
前回からの続きです。ラーニング・エクスペリエンス・デザイン(LXD)の最後のステップについて、私見を述べます。
KGIとKPIの関係
社会人の学習において、比較的中長期にわたる学習のゴールは、業務上のパフォーマンス向上を目指すのが理想です。短期・単発の研修では難しい面もありますが、中長期・複数回にわたる研修ならば不可能ではありません。
ゴールというからには修了時に達成/未達成が判定できる必要があります。その意味で、KGI(キー・ゴール・インディケーター)は定量的ならば判定が容易です。定性的ならば、第三者が客観的に判定できる状態を明確に定義しておく必要があります。
例えば、プレゼンテーション研修のKGIなら「顧客を相手に質疑応答も含めて30分にわたる商品プレゼンを独力で遂行し、受注を獲得できるようになる」などとなります。さらに踏み込んで定量的に設定するなら「プレゼン案件の受注率を、現状の3割から5割に引き上げること」などとなります。
KPI(キー・パフォーマンス・インディケーター)は、KGIを達成するためのKSF(キー・サクセス・ファクター)を踏まえた指標です。上記プレゼンの例になぞらえて、あえて定性的なKPIの例を述べると、「10分以内に商材をわかりやすく説明できる」「プレゼン途中でオーディエンスに問いかけて都度疑問を解消できる」「オーディエンスの興味関心、ニーズを踏まえて商品のベネフィットを語れる」などとなります。
KPI設定の意義は、結果指標であるKGIを一足飛びにコントロールすることは難しいので、プロセス指標であるKPIを複数設定してモニタリングし、学習者の行動をコントロールできれば、自ずとKGIは達成できる、という考え方にあります。つまり、「論理的な商品説明」と「顧客の疑問の逐次解消」と「顧客固有のベネフィットの訴求」の3つが揃ってできれば受注獲得できるので、3つの行動ができるようにトレーニングしましょう、ということになります。
うまいKPI設定のコツは「ビジネス行動のプロセス分解」
で、毎度議論になるのが、学習ゴール(KGI)とKPI間の、因果関係の有無です。つまり、頑張ってKPI達成したのにKGIは未達に終わった、あるいは、KGIは無事達成したけど、KPIは軒並み未達でした、という状態が起こり得るということです。なぜか?
KGIのKSF、すなわち「決め手となる成功要因」が明確でないからです。あるいは、条件によって変わり得るから、無限にあって特定できないからかもしれません。ビジネスは社会科学の領域だから、因果関係を明確に特定しにくいのです。「水を100℃に加熱すると蒸発する」といった自然科学とは違うということですね。
さはさりながら、学習KPIの設定において重要なことを列挙するならば、以下3点でしょう。
一連のビジネス行動を詳細なプロセスに分解すること
KGIを左右するKSFを見極めること
KSFを踏まえてKPIを設定すること
重要なことは上記2の「KSFの見極め」ですが、そのためには上記1の「プロセス分解」が肝になると思います。プロセスの分解には、センスが問われます。センスは経験から培われますが、調べることも役に立ちます。従って、そのビジネス行動の現場を観察させてもらう、その領域のハイパフォーマーにインタビューさせてもらう、立てた仮説を実際に実行して検証してもらう、などが役に立ちそうです。
「質を測るKPI」をモニタリングし、トレーニング内容を加減する
KSFを見極めたならば、上記3の「KPIの設定」となりますが、ここでKPIには「量を測るKPI」と「質を測るKPI」の2種類があることを押さえておくとよいでしょう。営業の領域を例に説明します。
受注に至るまでの営業活動を顧客接点ごとに、①電話やメールによる面談アポ取り→②初回面談(ニーズヒアリング)→③提案面談(プレゼン)→④クロージング(価格交渉やデモ体験)→⑤受注、とプロセス分解したとします。それぞれのプロセスには必ず「営業による申し入れ」と「顧客による承諾」がセットで存在します。電話でアポを申し入れて、初回面談の約束を取り付ける。初回面談でニーズを聞き取りして、次回の提案機会をいただく、という具合いです。前者を「量を測るKPI」、後者を「質を測るKPI」として設定可能です。量は回数、質は確率で表せます。
KPIをモニタリングし、その結果に応じてトレーニング内容を加減していくことを考えた場合、取り上げるべきは「質を測るKPI」です。「量を測るKPI」が未達の場合、原因が何であれ活動量を増やせばよいだけの話です。
一方で「質を測るKPI」が未達の場合は、プロセスを前進させるスキルが未熟である可能性が高いので、そこにトレーニングニーズが生まれるのです。
LXDのような中長期にわたる期間学習においては、学習KPIを設定し、モニタリングし、その結果に応じて学習内容を柔軟に変えていくことは可能です。学習ゴールの達成可能性が高まるという意味で、有効でもあります。
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