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講師への道 第4章 インストラクショナル・デザイン(ID)③ラーニングジャーニー

第4章 第1,2項からの続きです。若手B2B営業パーソンのための商談トレーニングについての架空のID(午前中まで)を例に、解説を続けます。


例示:若手B2B営業パーソンのための商談トレーニングID

  1. オープニング(研修の目的やゴール、時間割の明示、講師自己紹介)10分

  2. アイスブレイク「グループ内自己紹介」15分

  3. グループ討議「①商談力を要素分解し、②課題を特定する」25分

  4. 発表共有(グループ数にもよるが仮に)25分

  5. (各グループの発表に紐づけながら)まとめの講義「商談力とは」15分

  6. 休憩10分

  7. 講義「ニーズヒアリングのスキル解説」15分

  8. ペアロールプレイ「ヒアリング」10分

  9. 気づきの共有(講師によるフィードバックデモを兼ねて)15分

  10. 振り返り&フィードバック 10分

  11. 同じペアで役割交代して再度ロールプレイ&振り返り 20分


ここでロールプレイを置く、ID上の意味

研修開始からここまでの流れをざっと振り返ると、まず、オープニングで研修の目的やゴール、タイムスケジュールを提示しました。講師自己紹介も終わっていて、首尾よくいっていれば受講者は「聞く耳」を持っている状態になっているはずです。つまり、研修に対するマインドセットが完了しています。

次に、アウトプット中心の研修への地ならしという意味で、グループ内での自己紹介を行いました。研修開始早々に受講者本人に話す機会を与えることで、かつライトな話題で肩の力を抜いてもらえたはずです。
そのうえで本編に入りますが、あらためて課題の再認識するグループ討議から始めました。研修の序盤で「何にフォーカスすべきか」を明確にすることで、以降のトレーニング効果が高まるからです

続くグループ発表では、講師がコーチングのアプローチでアウトプットを深堀りし、課題認識をさらに一段深めることを試みます。さらに、グループ討議のアウトプット、受講者の気づきを講義にブリッジすることで、研修内容を自分事化させ、インプットの吸収力を引き上げます

ちなみに「講義へのブリッジ」を講師のセリフで具体的に表現すると、
「Aグループの発表にあった重要な気づきの理論的背景を補足すると…」
「Bグループからの問題提起を別の言葉で表現すると…」
「ここで紹介したフレームはまさに、Cグループの発表にあった経験則をモデル化したものと言えそうです」…みたいな感じになります。

グループ討議のアウトプット、受講者の気づきを丁寧に拾って講義に「橋渡し」する

ここまでの段階で、受講者の研修へのコミットメントは相当程度高められているはずです。一旦、クールダウンで休憩を置きましたが、さて休憩明けに何を行えばよいでしょうか?

ロールプレイでしょう。腕試しでしょう。受講者は自身のスキルを試したくてうずうずしているはずだからです。ここは全員にトレーニング機会を与えるためにペアロールプレイで、役柄を入れ替えながら2回行うこととします。

アウトプット⇒インプットを反転させる

ただし、ロールプレイの前にスキルの解説が必要です。我流が、先ほどクラス全体で共有された課題を引き起こしている可能性があるからです。
ここからは、アウトプット⇒インプットの流れを反転させます。我流を修正するためにやり方をインプットし、エクササイズとしてアウトプット機会を与えます。ここまでのIDで、受講者はインプットを素直に受け入れるマインドセットはできているはずです。

もっとも、我流の修正機会としてのエクササイズなので、上手くいかないことが大半です。なので、フィードバックが重要です。
ちなみにIDの話からは少し逸れますが、受講者同士でフィードバックしてもらうので、フィードバックの手順や先ほどのインプット講義に沿った「スキルチェックシート」を用意する必要があります。そうでないと、フィードバックの精度がばらつくからです。

デモンストレーションでフィードバックの精度を平準化する

フィードバック精度のばらつきを抑えるという意味で、講師がお手本を見せるが効果的です。IDの観点からは、ペアロールプレイの1回目が終わって、フィードバックに入る前に、実演を終えた受講者を1人、2人捕まえて、皆の前で講師からフィードバックするのが効果的です。
なお、ここで行う講師フィードバックは、講師がその受講者のロールプレイの様子を見ていない前提ですので、アプローチはコーチングになります。再度、IDの話からは逸れますが、参考までに問いかけ例を挙げておきます。

  1. 「やってみてどうでした?うまくいった点は?」

  2. 「いいですね。何が成功のポイントでした?」

  3. 「なるほど、先ほど講義で説明した〇〇を早速活用できたわけですね。では一方で難しかった点は?何が原因だと考えますか?」

  4. 「その点、是非もう少し詳しく。✕✕という観点ではいかがでした?」

  5. 「なるほど。では、再度やり直すならどんな工夫を新たに加えますか?」

  6. 「いいですね。私からアドバイス差し上げるとすると、○○をお試しいただくとさらにうまくできるかもしれませんね」

…という実演をやった後にフィードバックに移ると、ばらつきはある程度抑えることができるでしょう。

コーチング・アプローチでフィードバックのお手本を見せる

振り返り、フィードバックが終わったら、同じペアで役柄を入れ替えて、ロールプレイ&フィードバックを一巡させます。くどくなるので、気づきのクラス共有は省略していいでしょう。これで午前中のIDが全て終了です。本来であればランチ休憩後の午後のIDが連なりますが、一旦ここで止めます。

ID設計とはラーニングジャーニーを具体化すること

3回にわたってIDの作り方を実例を用いて解説してきました。前回、「ID設計とはメタ思考を駆使すること」と表現しましたが、「ID設計とはラーニングジャーニーを具体化すること」とも言い換えできそうです。
つまり、学びに向き合う受講者の、その時々の気持ちや姿勢の変化を、ポジティブとネガティブの起伏の連続でグラフ表現したとき、段階的にポジティブへと導いていくための、学習セッションの構成の在り方なのです。

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