夢見るりーちゃんは現実主義者
こんにちは。okknです。
本記事は SHIROBAKO Advent Calendar 2021 19日目の記事になります。
https://adventar.org/calendars/6228
SHIROBAKO Advent Calendar 2年目、2回目の参加となります。
今年のタイトルはかなり過激ですね。
(何が?と思われた方はググってはいけません。)
→過去記事:2020
■りーちゃんというキャラクター
私が『SHIROBAKO』作品の中で一番好きなキャラは今井みどり(以下、りーちゃん)です。
なぜなら、一番共感できて、私自身の考え方にもっとも近い考えをしているキャラだからです。
りーちゃんについて思っていることを適当に挙げるとするなら、こんな感じでしょうか?
少しあざとい、かわいい、空気を読んだ対応、普通に賢い、意志の強さ、好奇心旺盛。
みたいな。
かわいいは正義ですが、今回お話したいポイントはそこではありません。
りーちゃんをりーちゃんたらしめていると私が思っているポイント、「脚本家になるという夢を追う少女」について話していきたいと思います。
『SHIROBAKO』のアニメーション同好会のメンバーは全員大なり小なり夢を追っています。
みゃーもり以外はなりたい技術職が明確にありました。
(みーちゃんは明確かと言われると、少し怪しいですが。)
また、「5人で一緒にアニメ作品を作る」という共通の夢もあります。
しかし、りーちゃんの夢については当初より少し異色だと感じておりましたので、あえて、「脚本家になるという夢を追う少女」と表現しております。
※以降、周囲の登場人物の表記は、りーちゃんの呼称で記載します。
■脚本家になるには?
皆さんは今の職業にどうやって就いたのでしょうか?
私はITエンジニアをやっておりまして、未経験採用のIT企業に入社したことで今の職にありつきました。
では、脚本家になろうという夢を持っていたとして、どうやってなればよいか私も想像がつきません。
他の技術職を志向した3人についてはそれほどなり方は難しくありません。
(確実になれるという話をしているのではありません。)
声優:声優養成所/学校に通う or まずはタレントになろうとする
アニメーター:アニメーター養成所/専門学校に通う or ポートフォリオを持参して、就職活動を行う
3Dモデラー:グラフィック・プログラム系の専門学校に通う
私の知識の範囲内になりますが、こんな感じでしょうか?
その職に就けるかどうかは個人の努力次第としか言いようがないですが、入り口はそれほど狭いようには思いません。
広く門戸が開かれている気がしています。
しかし、脚本家はどうやってなればよいかわかりません。
専門学校はあるにはありますが、専門学校に通ったところでどのような仕事を斡旋してもらえるかわかりません。
私の想像になりますが、アニメ関連のライターのアルバイトをして、コネを作るなどでしょうか。
試しに『SHIROBAKO』のシリーズ構成である横手美智子さんの来歴をwikiから引用してみましょう。
そもそもどこでどうやって師匠に出会ったのでしょうか・・・
そして、当然のように師匠から依頼されるほど信頼されているなんて。
事実は小説より奇なり。
■夢を追う少女は周りとの差を思い知る
ここからはりーちゃんにスポットをあてて、話していきます。
最初、りーちゃんは普通の女子大生として描かれています。
4話のみんなと映画を見に行った後の会話では、りーちゃん以外の4人はプロとしてのコメントを述べていますが、りーちゃんだけは「ストーリーが良かった」という好きなことの観点から見た月並みな感想しか述べていません。
その上、少し弱気な面も垣間見えます。
こうなると感じるのは焦りや漠然とした不安です。
私も過去に経験がありますが、フリーター時代に周囲の友達は就職をしていっている中で、私だけが就職をせずに取り残されていました。
その時は将来に漠然とした不安を抱き、焦りも感じていました。
でも、私はりーちゃんとは違い、何になりたいとかそういったことはまだ考えていなかったので、焦って公務員試験を受けてみたり営業職になろうとして50社近く受けて全社にお祈りされたり。
空回りしまくっていました。
実際にりーちゃんも後に述懐しています。
夢がある中で、周囲と違って自分だけが夢に向けて何も動き出せていない状況は、さぞかし辛いだろうなと思います。
どうすれば良いかわからない、でも自分も「早く始めたい」。
そんな思いがよく描かれていると思います。
■チャンスを掴む握力は53万!!
作監補佐の業務を引受けるかどうしようか悩んでいる絵麻ちゃんに送った杉江さんのアドバイスです。
絵麻ちゃんは過去にスランプ(いわゆる闇落ちえまたそ)も経験し、この時は成長していたので闇落ちはしませんでした。
なので冷静に判断し、このアドバイスの後に作監補佐の業務を引き受けました。
・・・
翻って、りーちゃんは最初からチャンスを掴むことが非常にうまいなと感じています。
(53万は過当だと思いますが・・・)
例えば、設定制作のアルバイトをするに至るくだりです。
最初、「おいちゃん先輩にいつもお世話になっているから」という理由で武蔵境にディーゼル車があるかどうかの調べ物を買って出ました。
この時は本当にそれ以上の思惑や考えはなかったように思います。
後日、ムサニは三女を制作することとなり、おいちゃん先輩は軍用機について情報をまとめる必要が出てきました。
彼女にとっては非常に手に余っていた様子。
りーちゃんはそんなおいちゃん先輩に図書館で出会い、困窮しているとの話を聞きました。
すると、即座に「レポート程度でいいんならまとめますよ」と自分からその調べ物をしたいと買って出ます。
私が思うに、彼女の中ではこの状況は千載一遇のチャンスだと理解していたのだと思っています。
理解していた理由は、過去に同様のことが起こっていたからです。
ディーゼル車の調べ物をしたときから「あれ、私ひょんな事からアニメ業界のお仕事に携われている?」と思っていたはずですから。
賢いりーちゃんのことです。
この程度の状況分析はきっと行えていたと私は考えています。
つまり、おいちゃん先輩が困っている状況は再び奇しくもアニメ業界の仕事に携われるチャンスであり、軍用機についての調べ物こそが夢に近づくための切符だと認識していたということです。
直後の台詞で、彼女の口から夢に近づいているとの発言があります。
実際にその後、りーちゃんが調べたレポートは監督や舞茸さんから丁寧でわかりやすいと評価され、設定制作の業務に携わることができました。
もう一つ、チャンスを掴む握力つよつよなりーちゃんの話をしましょう。
20話以降、舞茸さんのことを勝手に師匠と呼び、シナリオ打ちにも必ず出席できるようになるまでアニメ制作に携わることができるようになったりーちゃん。
三女最終話、アリアが飛ぶためにキャシーとアリアのわだかまりをどのような台詞で解消するかということを考えていました。
この台詞について、「このときの会話書いてみて」と舞茸さんから突然振られます。
それに対して最初はりーちゃんも突然のことで驚いた表情を見せます。
しかしそこから彼女の持ち味が発揮されます。
数秒間色々なことを頭で巡らせて考えてみます。
と同時に、これは脚本家になるためのチャンスであることもわかっています。
そして、やはり「やる」という決断を下します。
ここで、「流石にできません」とか「自分には荷が重すぎます」と言ってプレッシャーから逃げ出してしまう人も多くいることでしょう。
そういう人を非難するつもりはありませんが、杉江さんの言葉を借りるなら「惜しい」なと思います。
なぜなら、夢が叶うまでの道のりが遠のいたのですから。
私もこういった場面には何度も出くわしてきていますが、私も数秒考えてから「やります」と大抵回答する派の人間です。
ですが、できないことは素直に「できません」と言います。
はっきりと申しまして、「チャンスへの挑戦」と「無謀な賭け」の境界線を自覚できているからこそこういった判断が下せるのだと思います。
そういった、いつ来るか分からないチャンスのために常に準備をしている人はプロとして全うだと思っています。
■努力は夢を叶える道具である
少し話が前後する部分もありますが、りーちゃんの努力についての話をします。
具体的な描写は少ないですが、いくつか読み取ることができる場面はあります。
・・・
まずは非常に読書家である一面は確実に垣間見えます。
7話から8話にかけてかおちゃん姉さんが東京にやってきた際は、りーちゃんは「ドスト祭り」を開催していました。
皆さんも徹夜で何か(仕事は除く)をしたことがあるかもしれませんが、よほど好きでないと徹夜で何かをしようという気にはならないですよね。
りーちゃんにとっては恐らくそれほどに小説等を読んで教養を深めることが大好きなのだと思います。
(個人的には小説を読むことそのものが好き、ということではないと解釈しています。)
7話冒頭で「ラスコーリニコフまじキャラ立ってます」と発言していることから、徹夜で「罪と罰」を読んでいたのでしょう。
因みに、「罪と罰」は様々な媒体で出版されているのでとても読みやすいです。
手軽に漫画版などを読んでみてはいかがでしょうか?
私も読んだことがありますが、ものすごく色々と考えさせられる作品です。
書評について日本を含め世界中のありとあらゆる人が、過去から現在まで様々な媒体で書かれているほど考えさせられます。
また、一次情報に書籍を選択していることについてもポイントが高いですね。
正しく確実な情報を得るために、一次情報に書籍を選択することはよくあります。
なぜなら、ネットの情報は誤った知識を得てしまう危険性を孕んでおり、誤情報を得ることは時間の無駄、ひいては作品世界に誤った情報を持ち込んでしまうことになりうるからです。
『SHIROBAKO』放映当時の2014年はネットの情報が爆発的に増えていた時期でもありますし、何より軍用機という機密情報に近いものを確実にまとめて手に入れようと思うと、書籍が最適だと私も思います。
この正しい情報を確実に得たいという姿勢は、地道な努力と捉えられると思います。
因みに、24話でみーちゃん先輩に頼まれて引込脚の参考画像を手に入れられないか頼まれた際に、りーちゃんは「池袋に専門の書店がある」と発言しています。
この池袋にある専門の書店とは、恐らく西山洋書さんのことだと思っています。
2015年6月に池袋店は閉店してしまいましたが、『SHIROBAKO』放映当時はまだあったはずです。
こちらの西山洋書さんには2011年にお伺いしたことがありますが、それはすごい量の軍事専門書の山でした。
私はこの時「Ju87」の情報を手に入れるために訪れたのだったと思います。
貴重な写真はこちらのブログから見ることができます。
こういった情報がパッと出てくることも、地道に本探しをしていた軌跡として垣間見ることができますね。
・・・
努力とは少し違いますが、好奇心が旺盛なことも重要だと感じております。
「知らないことを知ることが好き」と作中で2、3度発言していることから好奇心が旺盛なこともうかがい知ることができます。
好奇心旺盛であるがゆえの様々な知識収集が、将来物語を書くときに何か使えるかもしれないと思っているかもしれません。
こういった地道な努力が、夢を叶えるための手助けをしていることは間違いないと、私は確信しております。
■夢は言葉に出してこそ叶うもの
私は声優で歌手の水樹奈々さん推しなのですが、推している理由の一つに「自分の夢を必ず叶える神がかり的な努力の人」があります。
とにかくライブで自分の叶えたい夢の話を大勢のファンの前でしゃべるのです。
惜しげもなく、臆面もせず。
そして、その夢を本当に叶えてしまうのです、ファンも巻き込んで。
そんな奈々様のことを推さずにいられません。
本心から、ただただ尊敬です。
・・・
翻ってりーちゃんを見てみましょう。
かおちゃん姉さんに語った時は多少恥ずかしがってはいますが、アニメーション同好会のメンバーの中では臆面もなく夢を堂々と語っています。
まさに自分に言い聞かせるように、言うことによって覚悟を新たにしていると思っています。
しかし、夢を口に出しているだけでは、夢は叶いません。
逆に、夢を口に出さずにただ努力をしているだけでは、なんのために努力していたのか時に忘れそうになってしまいます。
夢を口に出して自分に言い聞かせ、小さな目標をコツコツとこなして努力してこそ夢は叶うものだと私は信じています。
後は、自己へのフィードバックですかね。
りーちゃんがディーゼル車の調べ物をしてからは、何度か「夢に近づいた感じがする」と発言しています。
自分が着実に夢に向かって進んでいると、自信を持ってフィードバックできていることもすごいなと思えるポイントだと思います。
■夢からは決して逃げない
夢を叶えたいと思う、重い決意をりーちゃんは常に背負っています。
それはとんでもなく重いものであって、「叶えばいいな」などという生易しいものではありません。
この重さは『SHIROBAKO』の全登場人物の中でも、特に際立っていると個人的には思っております。
彼女が夢を追う姿だけ、異色だと感じた理由はここにあります。
何が彼女にそうさせているのか最近まではよくわからなかったのですが、あるときに気づきました。
それは劇場アニメ『映画大好きポンポさん』を見たときでした。
作中、主人公のジーンくんが「それでも、僕には映画しかありません。」とポンポさんに祈るようにお願いするシーンがあります。
そこでふと気づいてしまったのです。
もしかして、りーちゃんはアニメ制作に携わるということ以外の全てを切り捨ててしまった人間なのではないか、と。
それならばここまで重い決意である理由にも納得ができます。
20話においては、おいちゃん先輩との会話の中でも「私の親は必要ではない人物だ」といったニュアンスの発言もしていますし、何か本当に重いものを抱えているのかもしれません。
(かおちゃん姉さんとおいちゃん先輩とのやり取りに「癒やされる」と発言していることからも、自宅ではなくよく宮森家で遊んでいたのかもしれません。)
・・・
さて、そんな夢を叶えたいという決意の重さが感じ取れるシーンを2箇所抽出してみます。
1つはアリアが戦闘機に乗ることから降りてしまい、どうしたらまた飛ぶ気になるかと心情を考察している場面。
その時、「どうするよ、ディーゼルさん?」と舞茸さんに話を振られて、こう回答しています。
もう1つは、『SHIROBAKO』の中でも私が2番目に好きなシーンです。
(※り→りーちゃん、絵→絵麻ちゃん)
明確に言葉に出して、怖いのは夢が叶わないことだと言い切れる人が世の中にどれだけいるでしょうか?
本当に意志の強さと決意の重さが感じられる場面だと思っています。
・・・
最終的に、1行だけ台詞を使ってもらうことが叶い、作中で一度も見せたことのない本当に嬉しそうな笑みを浮かべています。
私としてはこの採用された台詞こそが、ずかちゃんが発声する劇中劇としての台詞「今私、少しだけ夢に近づきました」であると思っております。
そう考えると、この「少しだけ夢に近づいた」との発言は三重に意味を持つことになります。
ずかちゃんが声優として1キャラ担当できたこと
りーちゃんが脚本家の卵として台詞が採用されたこと
5人全員で1本のアニメ制作に携わったこと
感動的なずかちゃんのこのシーンは何度見ても涙腺崩壊なくして見ることはできませんね。
今年のAdvent Calendarの中で@lacolacoさんが感動について面白い考察をされていました。
■りーちゃんを見ていて思うこと
夢を叶えようとする姿勢等については私も全面的に同意しているのですが、しかし同時に「夢を追うことに固執しすぎてはいないかな?」とも思っております。
私はITエンジニアとしての人生を歩むために、切り捨ててきたものはいくつかありますが、それ以外の全てといった極端な切り捨て方はしてきませんでした。
だからこそ、なんとなくりーちゃんの生き様というのは少し危ういなとは思っています。
りーちゃんは物語の中だけの存在なので特にどうも感じませんが、現実にいる人物なら少し心配しそうになります。
さて、最後に劇場版での成長したりーちゃんの話をして終わりにしたいと思います。
夢を少し叶えた先にあったもの
劇場版では脚本家稼業を初めて、舞茸さんからお仕事をもらってなんとかやっているようです。
ですが同時に、12本を一人で執筆(?)したりと若さゆえの無茶もいろいろとしているみたいです。
最初は舞茸さんから「そんな脚本で本当に大丈夫か?」と諭され、飲み会の場面では「全滅エンド」な脚本を執筆して、観客受けが良くなく悪名が広まっている模様。
他のキャラと同様に低空飛行しているところから始まります。
ですが、りーちゃん最大の見せ場はなんと言っても師匠と(勝手に)呼んでいた人から「商売敵だよ」と認められる場面だと思います。
どんなラストになったかは、最後に劇中劇で見ることができますが、確かにこういった終わり方もありだよなと思わせてくれました。
少し場面は遡りますが、舞茸さんはキャッチボールの場面で「どんな球だろうと届かないんじゃ意味ないだろう」と発言しています。
この発言はテレビ版のセルフオマージュとして、言葉のキャッチボールにかこつけて「どんなシナリオ(もしくは言葉?)だろうと(観客の心に)届かないんじゃ意味ないだろう」という暗喩であると私は思っております。
現にりーちゃんの「全滅エンド」は観客の心には届かなかったようですから。
りーちゃん的には「全滅エンド」の失敗を活かして、観客の心に届くような脚本にブラッシュアップしたようにも読み取れます。
同じく、ラウルやヘドウィックたちは多分死んで(確実に殺されていることでしょう)いますからね。
■最後に
ここまで大変な長文をお読みくださり、ありがとうございました&お疲れさまでした。
りーちゃんと夢の叶え方について私が思うことやこれまで考察してきたことをグダグダと書き連ねてきました。
短くまとまっていない時点で、私に物書きの才能はないですよね、はい。
まぁ、それでも伝えることをやめる気はないですが笑。
『SHIROBAKO』内において、夢を見ることについて悪し様に表現されている台詞は恐らくこれしかないと思っております。
勘違いされがちですが、平岡くんは過去の経験から夢を見ている人に対して悪態をついているだけで、夢そのものを悪し様に言ったり夢を見ることを諦めさせるような言動は一度も言ってはいません。
劇場版では、夢を見ることを思い出したようですし。
夢を見ることは私は全然良いことだと思っていますし、むしろ夢は持つべきものだとすら思っています。
何をしたいとか何になりたいという思いを持っていない若者が多すぎるがゆえに、現代の閉塞感が生まれているのではないかと私は個人的に思っております。
皆が夢や希望を持っていた高度経済成長期に、このような閉塞感はなかったとの認識です。
夢を見すぎると、確かにミムジーが言うようにふわふわした現実が見えていない胡散臭いやつになってしまうのかもしれません。
しかし、現実を見据えつつ夢を叶えようと必死に努力する人は美しいではないですか。
そして、夢を叶えようとしている人は皆、楽しそうでバイタリティあふれているように感じております。
そういう人と一緒に仕事をしている時は自分も楽しいですし、やる気をおすそ分けしてもらっているような気がします。
私の夢は、自分達も作っていて楽しいし、使う人も嬉しくなるようなシステムをチームで作ることです。
自分でマネジメントができない、もしくは信頼する誰かにマネジメントしてもらう事ができない今は、ダメですね。
道半ばといったところです。
あなたの夢は、なんですか?