文章作品の錯覚

 初めて小説を書く際、いきなり書店で販売されている小説や「初めて書いた作品で新人賞に」的な作品のクオリティを出そうとするのは無理だ。これは漫画なら誰でも分かることだが、なぜ小説ならいけると思うのだろうか。チャットやネットへの書き込みで文字を書き慣れているから錯覚しやすいのだろうか。
 まず、漫画と小説の違いを考えてみよう。漫画の場合、描き始めたばかりの人がいきなりプロ並みのクオリティを出すのは難しい。絵のスキルは目に見える形で分かりやすいからだ。キャラクターのデザイン、背景の描写、コマ割りの工夫など、多くの要素が求められるため、一目見ただけでその技術の差が分かる。一方で、小説は文字だけで表現されるため、表面的には誰でも書けるように見えるかもしれない。
 しかし、小説も当然ながら高度な技術が求められる。ストーリーテリング、キャラクターの描写、場面設定、テーマの一貫性、読者を引き込む文章力など、あらゆる要素が融合して初めて一つの作品が完成するのだ。さすがにこれらの技術は、一朝一夕で身につくものではない。
 チャットやネットへの書き込みで文字を書き慣れているからといって、それがそのまま小説の執筆に直結するわけではない。短いメッセージやコメントを書くのと、長編のストーリーを構築するのとでは、必要とされるスキルは大きく異なる。チャットでは一つのアイデアを簡潔に伝えることが重要だが、小説では複雑なプロットを無駄なく緻密に描く力が求められる。
 また、初めて書いた作品で新人賞を獲得した人たちの裏には、膨大な努力と経験がある。別に苦労しているわけではないだろうが、そういう天才達も多くの試行錯誤を経て、そのクオリティに達したのだ。出版された小説や新人賞受賞作も完成までに何度も推敲され、多くの人の目を通して改善されてきたものも多いだろう。
 初めて小説を書く際には、自分の期待値を現実的に設定することが重要だ。最初から高いハードルやクオリティを求めるのではなく、自分のスタイルを見つけること、書くことを楽しむことを大切にする。小説を書くことはマラソンのようなものだ。試行錯誤を繰り返しながら、自分のペースで進んでいくしかない。
 初心者のうちは、自分の書いた作品を他人と比較せず、自分自身の成長に焦点を当てるようにする。そして徐々にスキルを磨き、自分のスタイルを確立していくことで、いずれは書店に並ぶような作品を生み出すことができるかもしれない。千里の道も一歩からということを忘れず、自分のペースを意識して進んでいくといいだろう。

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