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16.城塞都市カーレ奪還
城内に突入した俺たちは、捕らわれていたサンサスの部下達を救出し、或いは、シャムの軍門に強制的に降っていたサンサス兵達をこちらに取り込みながら勢力を増やして、一気に城内のシャム勢力を席巻していった。
シャムがいなくなった軍勢は、指揮官をなくし、ほぼ烏合の衆と化しており、俺たちは難なくシャムの残兵力を駆逐、或いは、降伏させることに成功していった。
ところで、陸戦型バニラトラックであるキッドに、380ミリミサイルを連続で喰らったシャムはと言うと、跡形もなく消し飛んだかに見えたが、魔法でかろうじて防いだらしく、尖塔の上にぼろきれのようになって引っかかっているのが発見された。
俺たちが駆けつけると、シャムは魔法の力を使い切ったようで、その腹と胸から突き刺さった城の構造物が飛び出しており、かなり痛々しい。もはや、動くこともままならないようだ。
「殺してしまいましょう」
サムスが魔法石の複数入ったシミター抜き、シャムの首を切り落とそうと一歩前に出る。
シャムは観念しているらしく、長いまつげとアイシャドウで黒く縁取られた目を閉じた。
「待て」
俺はサムスを止めると、シャムの前に立った。
「殺せ」
シャムが俺をにらみ付け、口元から血を流しながら言った。
この場で始末しておきたいのはやまやまなんだけどねぇ。
こうなっちゃうと哀れだな。まあ、色々な意味で、この優柔不断さが俺の足を引っ張っているのかもしれないが。
俺はサムスにシャムの傷を魔法で治すように命じた。
「なっ…!」
猛反対するサムスであったが、シャムからノーム王の居場所やらなんやらを吐かせるという条件でしぶしぶ治療魔法を開始する。
ドラゴンがやれやれといった顔をした。
「何故、私を助ける?回復したら今度は必ずお前を殺すぞ」
病室で治療魔法が開始されたシャムが疑い深そうな目で俺を見つめた。
「あんたは改心するとは思ってもいなけどな。いい女を殺すのは忍びないからな」
「いい女?私がか?本当にそんなことを思っているのか?」
「ああ、性格以外はいい女だぜ。治ったら飯でもどう?」
俺はふざけて言ってみる。まあ、このオズな感じのファンタジー世界では俺は自由に生きるとしよう。
目を伏せ黙るシャム。あれ?どうした。
「いい女か…ふふふ。その余裕がお前の命を奪うことを後で証明してやろう」
「ああ、そうしてくれ」
なんかまんざらでもないみたいだけど、相変わらず恐いなぁ。
俺はシャムの病室を後にする。一応、レッドアイの衛兵達には気をつけるように指示は出しておく。まあ、シャムが本気になったらどうしようもないかもだけどな。
サムスの話では、治療魔法でもどこまで回復させらるかわからないとのこと。しばらくは絶対安静で動けないみたいだから大丈夫だとは思うけどね。
そして今度は地下牢でサンサスとロータグを発見したと報告が入る。
こちらも急いで駆けつけようとすると、何故か衛兵達に止められた。
なんでも、地下にある一番丈夫な鉄製の扉の奥にある牢屋に入れられているらしいが、なんでも、元々の能力をそのままにグール化したので、手が付けられないらしい。
サンサスはあの魔法と剣技を、ロータグはあの超絶剣技を持ったままグールになったので、その能力をそのままグールとして利用してくるのだ。
魔法剣士と剣聖がグールになったって感じなのか?
そのため、一度でも解き放たれてしまうと、もはや誰にも止められないらしい。
あのシャムでさえ、牢獄に閉じ込めるのに苦労したとのことだ。
魔法で封じられた鉄製の分厚い扉ののぞき穴から覗くと、ものすごいオーラを発してたたずむグールが二体。
サンサスの燃えるような美しい目と、ロータグの剣士特有の鋭い眼と合う。
二人ともグールと化して尚この迫力。
背中に冷たい汗が流れる。
これは、だめだな。暫く閉じ込めておかないと。
シャムが呪いを解けば、グール化した人達の呪いも消えると思っていたんだけど、どうも呪いの根源であるノーム王を倒さないと、呪いは消えないらしい。
ノーム王はどこにいるのか訪ねると、シャムは意外とあっさり教えてくれた。
ここから北へオズマ姫のいるエメラルドの国へと向かい、途中左に見える山脈の方、東へと進むと、ノーム王の迷宮への入り口があるそうだ。
「もっとも、この私でさえ、ノーム王の軍門に降っているのだ。貴様達では王に刃向かうことすらできまい」
シャムがそう言うからには相当強いんだろうな。
ノーム王はあらゆる生物を宝石に変えてしまう呪いを持っている上、更に異世界の悪魔とも手を結び、グール化の呪いまで手に入れたそうだ。
その力は絶大で、エメラルドの国からも討伐軍が派遣されたがことごとく撃退されてしまったらしい。
なんでも、オズの国に存在する最も深い迷宮の奥に今は居を構えているとのことだ。
城の次は迷宮かぁ。せっかくキッドが陸戦型バニラトラックに変形できるようになったのに、迷宮の中までは連れて行けないしな。
「迷宮ってどれくらいの大きさなんだ?」
シャムに聞いてみると、通路の大きさはまちまちだが、だいたい人が5人横に広がって歩ける程度の通路が大半だ。途中、天井まで数十メートルの巨大な空洞が唐突として現れ、ドラゴンやらなんやらが待ち構えているそうな。
階層は不明で常に深度や構造が変わっているらしい。
現在の戦力では心細いが、まあ、この流れでは行くしかないよね。
迷宮にそんな大群で行っても仕様がないし、いつものメンバー+αってとことかな。
カーレ城と城塞都市の管理統括は、サムスにやってもらおう。
もっとも、レッドアイによる市民に対する略奪や暴力は厳禁ってことで。
まあ、カーレの住人はレッドアイだけでなく怪物だかなんだか良くわかんないのも沢山いるので、レッドアイくらい強い種族が中心になって納めるのがちょうど良いかもという意見もあるしね。
「スパイク様が戻られるまで、この城と街はお任せ下さい」
うやうやしく頭を垂れてサムスが請け負ってくれた。
「私の代わりと言ってはなんですが、妹を連れて行って下さい。きっとお役に立つはずです」
ビビがレッドアイの正式な戦闘衣装で登場する。魔法石のちりばめられたシミターを腰に差し、ターバンを頭に巻いている。
「スパイク様、是非、私もパーティーに加えて下さい」
俺の前に跪くビビ。
魔法も使えるし、剣技も相当なものらしい。何より、その目を開けば数千度の高熱の炎が吹き出すレッドアイ。うまい飯も作れるので是非連れて行こう。
迷宮探索パーティーのメンバーは、ドラゴン、キッド、ビビ、フランカーとその部下数名と、何故かグール化したかかし娘ことクーガも連れて行くことになった。
俺が置いていくそぶりを見せると猛烈に暴れ出すのだ。
仕方ないので、鬼滅な感じの口かせをつけて連れて行くことにした。
俺はレクター博士が付けたいた仮面みたいのにしようと言ったんだけ、それはサムスに却下された。
まあ、この藁の詰まったかかし娘は連れて行っても、なんの役にも立たないだろうけどねぇ。
陸戦型バニラトラックから普通のバニラトラックに変形したキッドに食料や水を積み込みをお願いする一方で、俺はフランカーとその部下に軍事訓練を行うことにした。
基本はアサルトライフルとサブマシンガン、ショットガンによるインドアアタックだ。
キッドの貨物室に積まれていたライオットシールドも使用していくつかのフォーメーションと連携を訓練しておいた。
ライオットシールドは、デモとかで警察が構えているシールドのことね。
彼らは接近戦は得意なので、主に銃器を使用した戦闘訓練を重点的に行った。まあ、迷宮の魔物や、ノーム王にどの程度対抗できるか未知数ではあるが。
こうして数日の間に準備を整えると、俺たちはノーム王の住まう深き迷宮を目指して、カーラの城門から旅立ったのだった。
旅立ちに際し、なんか、ロードス島やら迷宮ご飯な感じがしてきて、俺はちょっとワクワクしてきたのだった。
To be continued.