酔いどれ小説【ベロベロノベロalc.4%】✖〈断片と枝葉➎〉
幼稚園から隣の区に越境して通っていた。
この話はその一文からはじめねばなるまい。
小学校から(途中で引っ越したがまた戻った)中学校まで隣の学区に通って、私立高校に入ってからは片道一時間かけて電車通学するようになった。
何が言いたいかと言えば、地元近所に友達が少ない、ということである。
実家の近所を歩いていても小学校や中学校の同級生と顔を合わせるようなことのない人生を送ってきた。
ただ一度の例外を除いて。
それは大学三年生あたりの頃のこと、夜の八時か九時くらいに地元の駅前で高校の同級生とバッタリ遭遇した。一年生の時のクラスメイトで、個人的な関係性よりかはグループ間のつながりのほうが強かった女子だ。
聞けば、大学が近くにあるから友達とルームシェアをしているらしい。自分も大学の近くで一人暮らしをしていたため、それが共通点というか、そこの親近感もあったのかもしれない。
二人ともまっすぐ家に帰るだけだったこともあって、一杯だけ飲みに行くことになった。どちらからともなく、というよくある言い回しは使えるしその範疇だとも思うけど、誘ったのは自分のほうだ。いくらか気心の知れた相手だったとはいえ、屈託なく誘えた自分を誇らしく思えたことを覚えている。単純に地元の駅で同級生と会えたことが嬉しかっただけかもしれないけど。
駅前のチェーン居酒屋に入って、実家と目と鼻の先のマンションに住んでいるらしいことを聞き出しながら飲んで、翌日に1限の授業があるとかないとかで、近況報告も足りないくらいの時間で店を出た。
そのまま帰るんじゃ勿体ないと果たして当時の自分が思ったのかどうか、勝手知ったる地元だけに、彼女の知らない場所を案内がてらちょっと遠回りして帰ることになった。
寄ったのは幼少期からさんざっぱら遊んできた坂の上の公園。
真ん中には公園のシンボル、山の遊具がある。
缶のお酒のひとつも買ってないけど、せっかくだからと二人で登ってみることに。
同級生の頃はペッタンコの靴で通う十代の女の子だったけど、二十代になった彼女はヒールのある靴を履いていた。
登り方が少し覚束ないことに気付き、レディをダンスにエスコートするように、そっと手を差し出した。映画なんかではよく見てきたシーンだけど、意中の相手ならまだしも同級生に対してそうした紳士的な振る舞いはなかなかしたことがなくて、でもその割にはナチュラルに差し伸べることができた。
そして、そこにほんの一拍だけ、間が生じた。
「男女」の間だ。
ただの友達でしかなかった二人が、はっきりと「異性」を意識した瞬間。
もちろんその一瞬だけ。刹那のきらめきだ。
彼女は笑顔を浮かべてその手を取ってくれた。小さい山の頂上までリードして、二人で束の間、夜空を仰いだ。
くすぐったいような気恥ずかしさの余韻はすぐになくなって、それよりもなによりも自然体で振る舞えたことに自分で驚いて舞い上がっていた。
つないだ手はもちろんすぐに離したけど、彼女との距離はすでに縮まっていたはずだ。