第一次代表メンバー発表(がっかり)!現代サッカーの基本をおさらいしつつ日本代表と照らし合わせてみたら浮き彫りになった(タイミングはさておき)ハリル監督解任の妥当性(ソフト面篇)

さて、前回の記事の裏付けとなる戦術論編

まずは現代サッカーの基本をおさらいしていきたい。
攻撃と守備の分業時代を経て確立された〈全員が攻撃と守備に関与する〉現代サッカーの戦術を端的に表すと、「〈4-4-2〉などの数字で表される、前線からDFラインまでの三つ(ないしは四つ)のラインをコンパクトに保ってスペースを消す守備方法」ということになる。

ラインの距離を狭く保つことのメリットは以下の二点、
①守備時に相手が自由にボールを受けられるスペースをなくすこと
②ボール奪取(攻撃)時に味方のサポート(パスの選択肢)が多いこと
攻守の切り替え(トランジション)の効率が上がる。

前回の記事で触れた基本戦型の違い(アクション/リアクション)に関わらずあらゆるチームが上の方式を踏襲し、戦術に優れた監督は〈攻撃時のビルドアップ・守備時のプレッシング〉をさらに効率化するべく攻撃時/守備時の可変流動フォーメーションを用いる。

三つのラインの最高地点最低地点をどこに設定しているか、最終ライン最高ラインの距離感によって戦い方を見分けることができる。

最低地点ペナルティエリアよりも高く保たれ・
最高地点=最前線が相手の最終ラインまでアプローチをかけていれば、
「前線からプレスをかけている」という状態になる。

最高地点敵陣のハーフウェーサークル付近(相手ボランチにアプローチ)・最低地点自陣のペナルティエリア付近にかけて敷くと、
「ブロックを作って守る」という表現になる。

プレスをかける/ブロックを作る」戦い方は試合展開(得点経過)や時間帯(流れ)に応じて使い分けられる(ことが現代サッカーでは求められる)。

同点時⇒前線からの連動したプレッシング
高い位置でボールを奪う⇒相手の守備陣形が整っていない⇒スペースがあり得点チャンスが広がる
から、同点時は積極的にプレスをかける。
リード時⇒ブロックを作った組織的な守備からのカウンター
90分間プレスをかけるのは体力が保たないので、リードしたら守備ブロックを作る。前がかりになる相手に対してボール奪取時の切り替えを早めてカウンターを狙う。ゴールまで直結しなければ、スペースを広く使ってボールをまわ〈ポゼッション〉して試合をコントロールする時間帯を長くする。
※ビハインド時⇒相手のブロックを崩す攻撃戦術
有効な攻撃パターンや突出した個の力なしには容易にこじ開けられない。正攻法は(相手を中央に寄せる)ミドルシュートとサイド突破の併用。打開策はセットプレー。最終的にはパワープレー。

近年、サッカー界全体に現代的な戦術が浸透・成熟した結果、単純な得点力や失点率だけじゃなしに、試合状況に応じてチームの特性に合った戦い方を徹底できる国が増えた。つまりはそれが時折「世界のレベルが上がった」といわれる所以である(詳しい例示はまた次回)。

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日本代表は…


現代サッカーの基本事項をおさえたところで、日本代表の戦術的完成度と照らし合わせてみれば、(解任までの不可解な経緯と緊急会見によって感情的な同情論が噴出している)ハリル監督戦術的には(タイミングはどうあれ!)解任に値したことがわかる。
相対的な尺度としてザッケローニ政権を比較対象にして、格上の強豪国との対戦時における両政権の戦い方をケース別にまとめてみる。

◇同点時 △ザック-ハリル△
〈遅攻〉を標榜していたザックJはボールをつなぐ〈ポゼッション〉の戦術蓄積があるだけあって強豪国相手でも慌てない試合運びができていたが、その分プレッシングによるボール奪取の意識や能力はそこまで高くなかった。

〈速攻〉に勝機を見出すハリルJは効果的にプレスがかかっているうちはいいが、強豪国が相手だとブラジル戦のように奪うべきところで奪えない⇒疑心暗鬼になってプレスが連動しない⇒しわ寄せを受けて最終ラインがずるずる後退ゲームを支配されて失点、という機能不全に陥ることもあった。
◇リード時 ✖ザック−ハリル✖
両政権ともリード時は脆弱さを見せる。相手の圧力を受けてしまってDFラインがズルズル下がる悪癖がなおらない。もともと豪州のロングボール攻勢に対して弱さを露呈してきたように(※今予選で初めて勝った豪州は現・横浜Fマリノス監督ポステコグルーのもと、パスをつないできたためくみしやすかった)ロングボールやクロスをはね返し切る高さと強さが心許ない

ベタ引きしても放り込みに弱いとなれば、リード時こそラインを下げずに少しでも〈ポゼッション〉を高めて試合をコントロールするほうがいい。この点で、ハリルJは前監督の残したノウハウを活かすべきだった。
さらに最終盤を守り切るにあたって、大型のCB二人に加えてボランチにひとり大きいアンカータイプの選手(を選ぶ戦術的工夫)がほしいところ。

◇ビハインド時 ◯ザック−ハリル✖
ザックJには全体がビルドアップしてから前線(大迫)がくさびでつぶれるかわりにサイドバック(長友)を押し上げ、逆サイドのウイング(岡崎)が決定機に絡む攻撃パターンがあった(華麗なパスワークによるゴールを含め欧州遠征の試合では失点後に追いついていた)ので、まだ巻き返しに望みを持てた。

ハリルJは〈プレッシング〉に適した選手を起用しているから遅攻時の攻撃パターンが少なく、ボールを奪う位置が低くなると攻めあぐむ。それでも縦に急げば全体の押し上げが遅れて攻撃が単発・単調になり、試合をコントロールされるので先制された時点で絶望に近かった。この点については、大迫や長友もはっきりと「縦、縦ばかりでは崩せない」旨の発言をしている。

失点しても取り返す期待があったザックJに比べ、ハリルJは〈ポゼッション〉による遅攻を軽視した代償で先制されると巻き返す余地がなくなる⇒先行逃げ切りの展開しか勝つ方策がない。それならリード時の試合運びに有効な戦術を兼備させなければ成立しない。そのためのオプションとなる〈ポゼッション〉能力を疎かにし、代わりの守備戦術(ベタ引きなのかプレッシングを押し通すのか)もW杯までの期間に熟成させられなかった。

日本人に合っているか云々は別として、①先制点をなかなか取れない、②取れても守り切れない、③取られたらほぼ取り返せないハリルJのサッカーにどれだけの価値があっただろうか。一発勝負がゆえに運よく結果が出たとして、その方向性(=岡田式リアクションサッカーの洗練型)が正しかったのか⇒今後も続けるべきなのか、という疑問もつきまとう。
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前回の記事で「積み上げがない」と説明した通り、ザックJの〈ポゼッション〉サッカーの土壌に〈プレッシング〉を根付かせるチーム作り(戦術的には守備時〈4-3-3〉型から攻撃時〈4-2-3-1〉型への移行も容易だ←これもまた次回)をすれば上積みが見えたのだが、その作業を怠ったハリルJは攻撃にも守備にも特長のないチームになってしまった。
(もちろん理論と実践は別問題で、戦術が変わればそれに合った選手も変わる。一例として〈ポゼッション〉にキープ力と状況判断力に長けたボランチが必須だとすれば、遠藤保仁から中村憲剛や青山敏弘、その後には柴崎や大島…系譜となる選手を継続的に召集してノウハウを継承させる采配が必要)

ハリルホジッチを選んだのはJFAだが、就任した以上は日本代表に積み上げをもたらす采配を振るうべきであって、表面的な戦績やチームマネジメント的な内部事情はどうあれ、それをできなかったどころか戦術的に選手たちの混乱さえ招いていたとなれば解任にも値しようもの。

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