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No.1246 あなたの気持ちが、良くわかる。

朝っぱらから尾籠なお話でスミマセン!
 
大分方言に「しかぶる」があります。「小便を漏らす」の意味で、赤ん坊や子供の生理現象でよく使われます。『日本国語大辞典』(小学館)に方言「しかぶる」が載っています。

「しかぶる【為被】[他ラ四] しそこなう。しあやまる。(方言)①大小便などを漏らす。粗相する。長崎県 熊本県南関 ②寝小便をする。伊豆大島 三宅島 福岡県築上郡 大分県 鹿児島県」
とありました。比較的に、九州で聞かれる言葉のようです。
 
朝ドラ「虎に翼」で、寅子の最初の夫・佐田優三さんは、猪爪家に下宿している書生でした。早くに両親を亡くしたそうです。弁護士だった父に憧れてもいたそうです。しかし、何年も高等試験(司法試験)に合格できずにいます。あろうことか、寅子に先を越されてしまいました。
 
優しく、思いやりがあって、芯の強い優三さんですが、緊張するとお腹が緩み、トイレに駆け込むことしばしば。激しく動揺しアタフタしてしまうところが玉に瑕ですが、彼のあの場面を見るたびに、辛くてほろ苦い「しかぶりそうになった」体験を、今も鮮やかに思い出してしまうのです。

「♪あれは3年前~」どころか、もう8年も前のことです。娘夫婦がイギリス訪問を提案してくれ、二人の両親と共に6人でロンドンとケンブリッジ1週間の旅に出ました。

旅の3日目の夕食は、イタリア料理店に行きました。口コミでも人気のあるレストランで、ワインと共に美味しく食事をしました。初めて食べたビーツのソース(?)に驚きました。

ところが、驚いたのは私の胃腸も同じでした。体の異変が起きたのは、店から10分ほどの距離にある地下鉄の構内でのことです。唐突にお腹が差し込み始め、下り龍のサインが腸の粘膜を猛烈に刺激します。すわ、一大事!

この時ばかりは、駅の有料トイレが1ポンドであっても喜んで支払いたくなる勢いです。娘から駅員にトイレの場所を訪ねて貰いましたが、顔面蒼白の東洋人を見ても、まったく気遣う様子はありません。
「構内にトイレはない。」
の一点張りです。

らちが明かないので、急いで駅から表通りに出ましたが、近くにコンビニもホテルも見あたりません。大型商業店に飛び込もうとしましたが、閉店の準備中とかで、にべもなく断られました。

ああ、もうダメだあ!明日の新聞の三面記事には、
「日本のサムライ、ロンドンで犬と化し、天下の往来で失禁す!」
の見出しで世間をにぎわせ、恥をさらさねばならないのか?

もうほとんど限界です。「人生最大のピンチ!」なのですが、カミさんも娘もどこかにトイレはないものかと先を急ぎます。遅れる私は、額に脂汗をにじませながら、女形のような走りでよろけながら追いかけました。

そして、気づけば、あのレストランまで戻ってきていました。そこには、天国がありました。何とか、しかぶらずに済みました。日本人の、いや、私の尊厳は何とか保てました。二度と経験したくない苦しみでした。

優三さん、あなたの気持ち、よくわかります。


※画像は、クリエイター・kaworukumadaさんの、タイトル「rewrite今昔物語 第五話」の1葉をかたじけなくしました。お店の看板のような木彫りの龍だそうです。お礼申し上げます。