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No.1430 お熱いのは、お好き?

寒くなりました。
昨日、仕事帰りに、スーパーで紙パック入りの低廉な日本酒を買って来ました。本当に久しぶりの日本酒でした。陶器の茶碗に注いで50度に設定してレンジでチンして飲みました。

何かに「日向燗」(ひなたかん、30度)、「人肌燗」(35度)、「ぬる燗」(40度)、「上燗」(じょうかん、45度)、「熱燗」(50度以上)とか書いてありました。ヘーボタンです。

久々の日本酒で熱燗だったので、クーッと喉元から腹に沁みました。何口か飲むうちに、急に昔のシーンがよみがえりました。それは、庭師だった義父との酒の場面です。

義父は、妻と酒とタバコをことのほか愛しました。職人気質の人で、厳格で、寡黙で、眉間にしわがあり、頑固一徹の人でした。
「お父ちゃんは、こうと言い始めたら、それこそ梃子でも動かない難しい人だったんだわ。」
と義母は、よくそう言いました。

その義父の楽しみは、晩酌でした。「剣菱」一本やりでした。痩せて引き締まった体でしたが、晩酌は体調不良の日以外に欠かしたことは無かったのではないかと思います。外風呂から帰ると、食事しながら酒をたしなみました。いい酒飲みで、飲み過ぎても乱に及ぶことがありません。むしろ、酒の魔法で重い口が少し軽くなりました。

もう40年も前の話ですが、カミさんを貰いに初めて家に行った夜、酒を勧められました。大いに緊張していた私ですが、ここで酔ってしまってはカミさんをもらいそこなうぞと、心にキュッとねじり鉢巻きをし、猪口を手にしました。

その時に、酒の燗用に使っていたのが、酒燗電気ポット(ステンレススチール製)でした。ポットの下部に温度を示すメモリとスライド式の調節つまみが付いていました。私の実家では、アルミ製のちろりで燗をつけていましたから、今様(?)の電気ポットは興味深いものでした。何度注ぎ合ったか覚えていません。私は、立ち上がることも出来なくなり、這い這いしながら布団の部屋に行ったと教えられました。

翌朝、食事をいただきながら、
「昨夜は、娘さんをくださると言って頂き有り難うございました。」
と礼を言うと、
「俺は、そんな事を言った覚えはない。」
と言われ、青ざめました。何せ、こうと言い始めたら聞かない人だからです。すると、義母さんが、
「いいえ、あなたは酔っていたけれど、ちゃんと『やる』って言いましたよ。」
と助け船を出し取り成してくれました。今あるのは、そのお蔭です。

お酒の燗を飲むと、そのことが思い出されて来ます。義父は、10年前の11月に82歳で、また義母は、4年前の9月に92歳で泉下の人となりました。


※画像は、クリエイター・odapethさんの「水道筋界隈で日本酒が飲めるお店」の一葉をかたじけなくしました。ちろりで注ぐ燗酒がいいですね。お礼を申し上げます。