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No.1425 奇跡のランナー

「邂逅」とは、このようなことを言うのかと思いました。

昨日が「墨輪九州交友展」(6日間開催)の最終日だということで、書家の若き同僚から頂いていた案内状を持ってアートプラザ2階のアートホールに向かいました。
「会派を超えて同世代の仲間と親交を深めよう」
と九州の書家たちが開いた交友展だそうです。10時開場なので、一番乗りしたいなと考えて家を出ました。

車を市内の有料駐車場にとめて、9時55分に大分県庁辺りまで来ました。大勢の人だかりでした。今年で第43回目を迎えた大分国際車いすマラソンが、県庁前を10時にスタートすることになっていました。

私のいる右手には、県庁前からスタートするフルマラソンの車いすの選手の群れ、左手の大分市役所前には、ハーフマラソンに出場する選手の一団が、「今や遅し」と逸る気持ちを抑えるように号砲を待っていました。

10:00のピストルの合図で一斉にスタートしたのはフルマラソンの選手たちでした。私は、ハーフマラソンの選手の反対車線の交差点から選手たちを見守っていました。3分後、ハーフマラソンの選手たちが号砲を合図に、ものすごい速さで飛び出していきました。

ところが、最後尾に、たった一人取り残されたように車いすの老人が、ゆっくりゆっくり、車いすを前へ前へ、と押し進めていました。老人は、80代後半に見えました。そんな年齢の人が、出場するなんてことがあるのでしょうか?前の選手たちからは、既に数百メートルも離されていますが、まっすぐ前を向いて銀輪を操ります。

懸命に進もうとする意志意欲が、その体の姿勢に表れています。見ていてグッと胸が熱くなりました。沿道のファンたちは、このお爺ちゃんを知っているのか、大きな声で応援し拍手をしながら見送りました。トップ画像は、その時に撮った1葉です。

お爺ちゃんは、どこまで走れただろうか?いや、お爺ちゃんはどんな人なのだろう?自宅に帰ってから、今回の車いすマラソン大会の事を調べました。ニュース記事に、今年は、海外12カ国からの参加者を含む14歳~98歳の190人が参加したとありました。
 
ええっ?98歳?思わず情報の画面に顔を近づけました。
大会最高齢のそのご老人は、工藤金次郎選手(徳島)でした。1981年(昭和56年)に始まった第1回大会から出場しており、怪我で欠場した1回を除き、大会に連続出場している猛者です。42歳の時に建設現場での作業中の事故で脊髄を損傷し、車いす生活となったそうです。

今年は「5キロは走りたい!」と意気込みを語っていたことも、昨年のコメントに、「観客の声援がすごいんだ。名指しで応援してくれる。『大分』があるから私は元気でいられる」と語っていたことも知りました。

第1回大分国際車いすマラソンに出場し、レースに魅せられ、競技にのめり込んだのだそうです。大ベテランであり、レジェンドですが、ここに至るまでの道のりは、言うは易く、行うは難きことだったに違いありません。それでも、諦めずに続ける気力体力は、多くの車いすの仲間たちにとって大きな目標ともなっていることでしょう。

大分市役所の裏手にあるアートプラザに付いたのは10:15でした。52作品の中に、
「運命も奇跡も直感も信じる人にやってくる」
という書の前に立った時、先ほどのご老人の姿が、急に思い浮かびました。信じて励むその姿に、打たれたのだと気づきました。

Googleでこの言葉を検索してみると、AI による概要に、
「『運命も奇跡も直感も信じる人にやってくる』という発言は、ジョン・レノンによるものです。」
とありましたが、「生成 AI は試験運用中です」とも書いてありました。
 
結局その言葉の出典を明らかにできませんでしたが、98歳のご老人に相応しい言葉だったなと思いました。奇跡の老人ランナーに出逢い、書に出合う不思議な「邂逅」でした。