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Photo by
nana_hitori
No.1463 小さな懐紙
二日前の教え子つながりで思い出したМ君のことも聞いてやってください。突然彼が学校にやって来たのは、記憶が遠くなるくらい昔の、新学期早々の、何かと慌ただしい時でした。
高校生の頃の彼は、他の追随を許さぬ「遅刻王」でした。彼の名前は知らなくても「遅刻王」と言えば、先生方も彼を思い出す、そんな男でした。将来への目標がなく、自信も無く、やる気が起こらない。自堕落というか、シャキッとせぬ生活をしているようでした。
怠惰ではあったけれども、悪さをして親を泣かせるようなことはしませんでした。その彼が、菓子製造会社に就職しました。「運が良かった」とか「奇跡的だ」とか言う先生もいましたが、会社の面接官は、彼の「人」を経験的に見抜いて下さったのだろうと思いました。
放課後になってから母校にやって来た彼は、自分の会社で作った菓子を土産に持ってきてくれました。当時お世話になった先生方の机の上に一つ一つ菓子を配って回りました。菓子を置く小さな懐紙も用意することを忘れませんでした。
そんな気の利かせ方も、成長の証でした。彼は、自分らしさを菓子作りの仕事に見出して、笑顔で先生方と会話しました。彼の誇りが、そこにありました。ゆったりとして落ち着きのある姿は、学校で見せた(見た)ことのないものでした。社会はスゴイ、そして、有り難いと思いました。
※画像は、クリエイター・「nana おひとりさま☆nanaの のんびりな毎日」さんの「シャトレーゼで買ったキャラメルクッキー。」の1葉です。お礼申し上げます。