No.76 したたかに…。
ここ数年の私は、後ろを見る事なく前に進むのではなくて、後ろを振り返りながら、思い出しながら前に進む力を得ようとしているようです…。
もう随分昔の話です。祖父母の家で育ち、そこから通学する生徒が入学して来ました。その男子のお爺ちゃんは、孫があまりに勉強しないので、
「俺もやるから、お前も頑張れ!」
と一念発起し、同じ4月に市内の通信制高校に入学したそうです。
向上心や向学心が人一倍強かったのでしょうが、孫の将来を思っての叱咤激励を我が身で示した気骨・気概のある老人です。こうして、孫と一緒に「高校生」として「ライバル」として足を踏み出したのでした。
私のクラスのその孫は、事情を知ったクラスメイトから「爺さん」の渾名で親しまれました。人柄がよく、笑顔で交わるので、男女を問わず好かれましたが、学習面でも成績を譲ってしまう人の好さ。一方、本物のお爺さんは、負けん気の強い頑張り屋で、「渾名の爺さん」は、最後まで「本物のじいさん」に敵いませんでした。
彼が卒業して何年後だったか、そのお爺ちゃんが他界したことを知りました。私は、学級懇談会に出席して孫の教育観を熱く語ってくれたお爺ちゃんのことを急に思い出し、その夜、したたかに酔いました。