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No.1311 偉丈夫・文夫君

文月の初めに、静岡の畏友から郷土史同好会発行の雑誌「月の輪」(第39号)が送られてきました。創立40周年記念号とのことで、伝統ある郷土史誌のようです。その中に、大学の同期生で青春時代の苦楽を共にした増田文夫君の寄稿もありました。

先に『神々に訊ねよ~旧芝川町内房の石造物を核として~』(2023年9月発行、フジ印刷発行)という385ページにもわたる作品をものしたばかりです。地元の石造物(馬頭観音、力石、道しるべ、巡礼碑、子安観音等々)につき、10年来の詳細な調査研究成果を結実させたもので、根気と情熱なしには到底成し得ない労作です。

今回の論文は、「神々に訊ねよ~旧芝川町内房に鎮座する神々の全貌を訪ふ~」(同誌、P41 ~P65)というもので、前著に載せられなかった残りの一章を今号(前半部)と次号(後半部)に分けて発表する企画です。
 
その彼の掲載文の「はじめに」の言葉に惹かれました。
「この内房の各集落には、様々な神様が鎮座しているが、実のところ、自分の集落の氏神様がどなたをお祀りしているのか解らないことが多いのが実情のようだ。」
「折角、神様にご利益や安寧や家族の健康等を祈願するのに、一体、私たちの住む邑にある各神社は何の神様をお祀りしてあるのだろうか?との疑問から、内房各集落の神様を巡る旅に出掛けてみた。」
 
私たちの近在の神社やお寺は、それぞれに由緒があり、「縁起」も書き残されていますが、さて、意外にも身近な所にある石仏や碑や道祖神などは、謂れはあってもその詳細はわからないものです。彼は、その地区の石にまつわる神々の所在と実態を解明したいと考え、その全容をほぼ網羅した研究に取り組み、写真と活字で残そうと計画したのです。
 
彼の研究は地史の一分野に過ぎないかもしれませんが、異彩を放つ業績であり、立派な金字塔を打ち建てたと思います。そして、同地区の後続の郷土史研究家たちにとって、先駆的な仕事をやり遂げたとも考えます。
 
大学時代は、現代作家の作品研究が卒論のテーマだった彼ですが、いつの間にか地元に根付き、郷土史研究に目覚め、余人の及ばないところにまで研究の歩を進めていました。
「あぁ、かったりー!」
が、何かを始めるときの彼の口癖(符丁)でしたが、そこには秘められた情熱もあったのでしょう。今は、駿河の国の男らしい、見上げるような偉丈夫・文夫君です。