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No.742 新型コロナと向き合う十代の心

2020年(第34回)、2021年(第35回)と「現代学生百人一首」(東洋大学主催)において、中学生・高校生は家庭や学校や社会との交わりの中で新型コロナウイルスとどう向き合い、どんな歌を詠んだのか知りたいと思いました。
 
2020年の応募総数は65,499首、また、2021年の応募総数は78,444首でした。入選は100首ですから、その入賞率は0,15%~0,12%という超絶狭き門です。そして、その入選句の中の、実に30%前後が新型コロナにまつわる詠歌だったのです。
 
2020年と2021年とでは、国を挙げての取り組みも異なりますし、学生や我々大人の受け止め方や対処の仕方も随分変わりました。社会構造や働き方改革にまで及んでいます。そのような波をまともに受けた彼らは、どう声を上げたのか、どう歌にせずにはおられなかったか、入選句の中から抄出しながら鑑賞してみました。お付き合いいただければ有り難く存じます。
 
●2020年(令和2年)の入選句から
「画面越し毎日見てた担任がデカくてびびる初登校日」
埼玉県・中1・女子
(思わず「ある・ある・ある!」と連呼したくなる新型コロナゆえの実話ですね)
 
「久々に着た制服の窮屈さ自粛期間の長さを語る」
埼玉県・中2・男子
(ところが、予想外に、それは自粛の入り口でしかなかったのでしたね)
 
「学校のリモート授業寝落ちして起きたら画面に僕しかいない」
埼玉県・中3・男子
(私も大学の恩師宅で寝落ちして、目覚めた時のバツの悪さは一生忘れません)
 
「テレワーク父の携帯鳴り止まない乾いた笑いおそらく上司」
千葉県・高1・男子
(鋭い視聴覚、そして鋭い感性で大人の世界を見つめる君に私も投票したい)
 
「会いたいと慣れないスマホでかけてくるそんな祖父母を愛しく思う」
千葉県・高1・女子
(本音を打ち明けてくれるお爺ちゃん・お婆ちゃんの一言が心に染みますね)
 
「『こ』と打ってコロナと予測変換しスマホまでもがコロナ禍にいる」
東京都・高3・女子
(実体験からの気づきが新鮮であり、コロナの深刻さを物語っています)
 
「リモートで遅刻欠席ゼロだけど下はパジャマの校則違反」
東京都・中3・女子
(「こんな格好で失礼します!」なんて言わなかったのでしょうか?)
 
「街中で咳き込む人を睨みつけ私は既にコロナ脳なり」
東京都・高2・男子
(本当に、日本いや日本人全体が過度に過敏に反応したコロナ禍1年目でした)
 
「通学路雨浴び輝く紫陽花を一人楽しむ分散登校」
東京都・中2・女子
(コロナの風聞かまびすしき中でも、こんな世界に遊ぶ心の豊かな女生徒も…)
 
「この先に今年があって良かったと思える日々があると信じて」
神奈川県・高1・女子
(うーん。こんな考えや見通しが出来る若い人の良識に唸ります。敬愛します)
 
「京の夜いつもと違う点六つ来年は見たい大の灯し火」
京都府・中2・男子
(五山の送り火は、大の字の中心部と頂点、四端の計6か所だけ点火されました)
 
「無観客いつもは聞こえぬ打球音プロの淒さを改めて知る」
広島県・高3・男子
(無観客試合と言えば「大相撲」も同じで、体当たりの音、力士の声が響きました)
 
「政府から『不要な外出控えてね』時代が僕に追いついたようだ」
徳島県・高専1・男子
(そうかあ、時代を先取りした生き方をしていたのかぁ。先見性に富む人と見た)
 
「中継を見ながら過ごした祈りの日いつも以上に思いを込めて」
長崎県・中3・女子
(長崎原爆忌に毎年参列して祈りを捧げたのに、コロナ禍でその場を奪われました)
 
 
●2021年(令和3年)の入選句から
「二回目のワクチン接種終わったよ単身赴任の父への切符」
北海道・高3・女子
(6月17日から18~64歳までの人々がワクチン接種対象者。会えましたか?)
 
「レジの前ライン引かれて気が付けば等差数列みたいに並ぶ」
宮城県・高2・女子
(数学の知識を応用した高校生らしい切り口の短歌が、現実生活を写しています)
 
「次はいつ会えるのかしらと泣く祖母の手も握れずにガラスと会話」
宮城県・高2・女子
(まだまだ厳しい制限が続きました。お婆ちゃんの不安が手に取るようです)
 
「発表中私の声が遅れてる私は困惑画面は爆笑」
茨城県・中3・女子
(これも「コロナ禍ある・ある」ですね。日本中にこんな明るい笑い声もありました)
 
「ピカピカに磨いたフルート出番なく涙にぬれたコロナ禍の夏」
埼玉県・高1・女子
(憎きコロナは無情にも地区大会や中央大会・全国大会への出場の機会を奪いました)
 
「看護師の祖母が引退『おつかれ』とハグしたいのをはばむ世の中」
埼玉県・高3・女子
(永年勤続の退職者への慰労会もなくなり、親しい家族へのハグも奪った憎いヤツ!)
 
「コロナ禍で日々マスクつけ気がついたプリクラよりも盛れる気がする」
埼玉県・高2・女子
(そう来たかー!JKさんの発想の転換も、面白いところに気づく感覚も大盛り?)
 
「コロナ禍で出かけられずに家籠る一度も着ない夏服たちと」
千葉県・高3・女子
(夏服もあなたも、互いに恨めし気に寂しげに見つめ合っているのでしょうか?)
 
「不織布を『ふしき』と読んじゃう君だから不思議な君を僕は読めない」
千葉県・高2・男子
(そんな彼女だから守ってあげてね!読めない魅力に堕ちそうな好男子君!)
 
「休日に壁越しに聞く会議の声優しい父の上司の一面」
千葉県・高1・女子
(鋭いなぁ!働く男、上司としての父親を声のトーンで知ったコロナの功罪)
 
「アクリル板マスク消毒ディスタンス慣れたくなかったこんな生活」
東京都・高2・男子
(上の句の学生の四種の神器が効いています。慣れたくもなりたくもなかった)
 
「ズーム中ミュート忘れて歌うたいさびしい授業わらいあふれた」
東京都・高2・男子
(怪我の功名?「寂しさ」が一転「賑やか」になり、君は主役に躍り出ました)
 
「音のない世界で私達手で話す画面ごしでも笑い合えてる」
神奈川県・高2・女子
(口元が見えなくても、画面でもしっかり手話で会話が可能。手話は画期的です)
 
「卒アルの写真撮影マスクとり初めて知った先生の素顔」
愛知県・中3・女子
(お互いの顔を3年間で初めて知った学年だったのですね。何か、ほっと…。)
 
「十年後再会しても気づくかなマスク顔しか知らない友達」
三重県・高2・男子
(本当に、どうなのでしょう?でも、好きな人はちゃんと見分けられるのかな?)
 
「視線落ち口にはマスク会話なく耳にはイヤホンまるで三猿」
兵庫県・高1・女子
(キターー!その見立てにシビれます。確かに、見ざる、言わざる、聞かざるだ)
 
以上です。今年2022年(令和4年)の入選句の発表は、2023年1月16日だそうです。コロナ禍の中での彼らの心の軌跡に注目しています。

※画像は、クリエイター・モモリ スウさんの、タイトル「あなたのnote、漫画にします」をかたじけなくしました。中学高校生の「青春」がさわやかな風の中でそよいでいます。お礼申します。