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No.1527 月下氷人

昨今、結婚披露宴に「仲人」「媒酌人」の姿を見かけなくなりました。当節は流行らないそうです。その理由としては、「頼むのが面倒」「必要性を感じない」「形式的にしたくない」などの意見が多く、伝統や形式にとらわれず、自由でフランクな結婚式にしたいと考えるカップル(古いか?)が多いのかもしれません。主役であり、おもてなしするサイドのお二人の意向が一番大切です。威儀を正しすぎず、堅苦しい雰囲気がほぐれることは、間違いないでしょう。
 
40年前の私たちは、恩師に仲人をお願いしました。披露宴で、最初に二人のなれそめから始まって、恩師が紹介して下さったお話は20分も続き、ホテルの厨房の方々をさぞ慌てさせたことと思います。予定は「巻き巻き」時間のスケジュールに早変わり。カミさんは全速力でお色直しに行きました。恩師は、今は古里の墓で苦笑しておられる事でしょう。

「月下氷人」
男女の縁をとりもつ仲人、媒酌人のこと。故事の「月下老人」と「氷人」との合成語。
【歴史・由来】
「月下老人」は唐の韋固(いご)が旅先で月夜に会った老人から赤い綱で男女の足をつなげば縁が結ばれるといわれたという故事。
「氷人」は晋の令孤策(れいこさく)が夢の中で結婚の仲立ちをするだろうといわれたという故事。 

ゼクシィ「ウエディング用語集」より

とありました。二人にとって真にキューピッド(月下氷人)のような方がいらっしゃったなら、心を込めて感謝の念を表せば、何も仲人に立てなくてもよろしいかと思います。
 
ただ、残念に思うこともあります。

「菊作り 咲きそろう日は 陰の人」
 高名な作家吉川英治さんの句だそうです。吉川さんが枚方パークの菊人形を見に行って、とても素晴らしい平清盛の作品を見て感心していたら、すぐその近くにその菊人形を作った庭師の人がひっそりと佇んでいたのを見て、作った句だそうです。和歌山県幼稚園協会の松下瑞應会長に教えていただきました。松下さんは、教養にあふれる方で、いつも何か為になる逸話をお話の中で紹介して下さいます。私は、松下さんのお話と前和歌山県病院協会の成川守彦会長のお話をそういう意味でいつも楽しみにし、感心してお聞きしていました。

和歌山研究会 代表:仁坂吉伸氏の文章より

と、句作の背景を知ることが出来ました。
 
「菊づくり 菊見る時は 陰の人」
の句の方をご存知の方が多いのではないでしょうか。昭和の時代の結婚披露宴の時に、来賓のスピーチでよく紹介された句でした。手間がかかる「菊作り」と「子育て」は実によく似ており、その菊(子)が見事に開花(結婚)した時に、育てた庭師(親)は陰になり見守っている親心と重ねて、深い思いを歌で代弁したのです。
 
「菊根分け あとは自分の 土で咲け」
これも、吉川英治さんの句です。知り合いのお嬢さんの結婚の際に、はなむけの言葉としたものだとネットの多くの記事にありました。
「生まれた家から離れて独立し、今度は、新たな夫婦の家で家族を作り歴史を作り、彩り豊かに生きなさい。」
との思いから詠まれたのでしょうか。「幸せな家庭を!」との親の願いや祈りが、この句に凝縮しています。12年前に娘を送り出した時の気持ちは、私の中で少しも色あせていません。
 
第二の人生を愛する人とスタートするにあたり、仲人や来賓のスピーチには、人生経験を踏まえた知恵や、心の琴線に触れるお話もあったはずです。先の吉川英治の含蓄ある17音に、ある人の結婚式で感動させられたことのある私には、一生に一度聴けるか聞けないかのチャンスもあった事を思うと、少し、残念に思われるのです。
 
以前、息子が友人の結婚式で聴いたというスマートなスピーチを一つご紹介させて下さい。
「ご結婚、おめでとうございます。家庭を作り親になるには、これまでの様にスキという気持ちだけで、夫婦や家庭が作られ守られていく訳には行きません。
 『手を入れ』『手をかける』ことが大切です。そうやって、スキが『ステキ』に変化して行きます。
 どうかステキな夫婦に、ステキな家族に、ステキな家庭にして下さい。」


※画像は、クリエイター・わたなべ - 渡辺 健一郎 // VOICE PHOTOGRAPH OFFICEさんの「記念写真」の1葉をかたじけなくしました。お礼を申し上げます。